2007/08シーズン(2007年第36週/9月〜2008年第35週/8月)のインフルエンザ定点からの報告患者数は約67万人であった。1995/96シーズン以来12シーズンぶりのAH1亜型を主とする流行で、AH3亜型は過去6シーズンに比べ大きく減少した。
患者発生状況:感染症発生動向調査では、全国約5,000のインフルエンザ定点医療機関(小児科3,000、内科2,000)から、臨床診断されたインフルエンザ患者数が週単位で報告されている。定点当たり週別患者数は、サーベイランスが開始された1987年以来最も早く2007年第47週に全国レベルで1.0人を超え、2007年第51週まで増加したが、年末年始にいったん減少した後、再び増加して第5週にピーク(17.7人)となった。第6〜7週に大きく減少し、第8週以降は緩やかに減少し、第14週に全国レベルで1.0人を切った(図1およびhttp://idsc.nih.go.jp/idwr/kanja/weeklygraph/01flu.html)。ピークの高さでみても、シーズン全体の定点当たり累積患者数(142.0人)でみても過去10シーズンでは2000/01シーズンに次いで2番目に規模の小さい流行であった。
都道府県別にみると、流行は北海道と青森で早く始まり、後半には、九州各県で流行がみられた(https://nesid3g.mhlw.go.jp/Hasseidoko/Levelmap/flu/index.html)。沖縄では、過去3シーズンに引き続き2007/08シーズンも夏季に流行がみられたが規模は小さかった(本号13ページ)。
5類感染症の「急性脳炎」として全数届出が必要なインフルエンザ脳症は34例の報告があった(2005/06シーズン51例、2006/07シーズン45例)。
ウイルス分離状況:全国の地方衛生研究所(地研)で分離された2007/08シーズンのインフルエンザウイルスはAH1亜型3,646、AH3亜型504、B型306であった(2008年10月16日現在報告数、表1)。この中には海外渡航者22例からの分離が含まれていた(表2)。
2007/08シーズン初の分離報告はAH3亜型で、2007年第37週に愛知で5家族10人の患者中2例から分離された(IASR 28: 324, 2007)。AH1亜型は第39〜40週に沖縄で定点を受診した患者から分離された(IASR 28: 324, 2007)。第39週には神奈川(IASR 28: 351-352, 2007)、第41週には千葉(IASR 28: 324-325, 2007)と、AH1亜型の分離報告が増加した(図1)。B型は第46週に京都で山形系統株が最初に分離され(IASR 29: 15-16, 2008)、次いで第47週に広島でVictoria系統株が分離された(IASR 29: 16, 2008)。2008年第4週のピークまではAH1亜型がほとんどで、その後AH1亜型が減少するのと入れ替わりにB型とAH3亜型がやや増加した(図1)。AH1亜型は国内例からの分離は第16週が最後となった(以降は第29週にマレーシア、第32週に中国からの帰国者のみ)。都道府県別にみると(図2)、北海道をはじめとして、シーズン前半にAH1亜型、後半にAH3亜型、加えて中盤にB型も分離された地域が多かった。
インフルエンザウイルス分離例の年齢分布の特徴を型別にみると(図3)、AH1亜型は各年齢とも2006/07シーズンより大きく増加し、小児では7歳を中心に4〜10歳で全体の58%を占め、成人では30代、20代、40代の順に多かった。AH3亜型は各年齢とも2006/07シーズンより大きく減少し、3〜7歳がやや多く、成人では20〜30代が多かった。B型は4〜7歳がやや多く、成人では2006/07シーズンに少なかった30〜60代でわずかに増加がみられた。
2007/08シーズン分離ウイルスの抗原解析と2008/09シーズンワクチン株:AH1亜型流行株は2007/08シーズンワクチン株であるA/Solomon Islands/3/2006類似株が約70%を占めたが、3月以降はA/Brisbane/59/2007類似株が顕著に増加した。AH3亜型は2006/07〜2007/08シーズンワクチン株であるA/Hiroshima (広島)52/2005 類似株は5%程度であり、A/Brisbane/10/2007類似株が約80%を占めた。B型はほとんどがVictoria系統であった2006/07シーズンとは異なり、山形系統株が77%を占めた。山形系統株は2008年南半球用ワクチン株であるB/Florida/4/2006に類似しており、Victoria系統株は2006/07〜2007/08シーズンワクチン株であるB/Malaysia/2506/2004に類似していた(本号3ページ)。
ノルウェーなどヨーロッパ諸国および南半球ではAH1亜型オセルタミビル耐性株が高頻度に分離されたが、日本では2.6%と少なかった(本号3ページおよびIASR 29: 155-159, 2008)。
2008/09シーズンのために選定されたワクチン株は3株とも前シーズンとは異なり、AH1亜型はA/Brisbane/59/2007、AH3亜型はA/Brisbane/10/2007類似株であるA/Uruguay/716/2007、B型は山形系統に属するB/Florida/4/2006である(本号11ページ)。
インフルエンザワクチン生産量と高齢者の接種率:2007/08シーズンは2,550万本製造され、2,257万本が使用された。2008/09シーズンには約2,145〜2,400万本の需要が見込まれており、最大で2,640万本の製造が予定されている。予防接種法に基づく高齢者(主に65歳以上)に対する接種率は、2006/07シーズンの50%から2007/08シーズンは55%に増加した(http://www.mhlw.go.jp/shingi/2008/06/s0618-9.html)。
鳥インフルエンザ:海外ではヒトのA/H5N1亜型感染例が引き続き発生している。WHOには2003年〜2008年9月10日までに387例(死亡245例)が報告されている(http://www.who.int/csr/disease/avian_influenza/en/)。
わが国でも東南アジアから帰国後に鳥インフルエンザが疑われた患者も散見されていたが、地研と国立感染症研究所(感染研)による検査の結果、すべてA/H5N1陰性であった。ただし、オルソレオウイルスが分離された例も報告されている(本号14ページ)。地研と感染研の検査協力体制が益々重要となっており、2008年8月、地研検査担当者へのA/H5N1技術研修が感染研で行われた。
おわりに:2004/05シーズン以降、夏季の地域流行が注目されている。沖縄では2007年第24週以降AH1亜型のみが分離され、2007/08シーズンの全国的なAH1亜型流行の前触れとなった。このように夏季に分離された株が次のシーズンの流行株となることも多く、今夏は6月に青森の高齢者施設(IASR 29: 228-229, 2008)と岡山の大学(IASR 29: 253-254, 2008)(AH3亜型)、7月に千葉の小学校(B型)(IASR 29: 254-255, 2008)、8月に神奈川の寮(本号16ページ)(AH3亜型)と、集団発生の報告が相次いだ。また、海外渡航後にインフルエンザを発症した者からの検出も年間を通して報告されている。通年的にインフルエンザウイルス分離を行い、ワクチン候補株を確保するとともに、流行株のウイルス解析情報に基づきワクチン株を選定することが益々重要となっている。
2008/09シーズン速報(http://idsc.nih.go.jp/iasr/influ.html):シーズン開始直前の第35週に愛知で2件(フィリピンからの帰国者家族)、第35〜36週に神奈川で5件(寮)、第36週に栃木で3件(中学校)、第37週に兵庫で1件、第41週〜第43週に大阪で4件、第42週に兵庫で1件のAH3亜型を分離。大阪で第40週に2件、第41週に6件(小学校)のVictoria系統のB型を分離、第38週に栃木で2件(中学校)、第41週に東京で4件(中学校)のB型をPCRで検出。第43週に山口で3件(幼稚園)のAH1亜型を分離(2008年11月4日現在報告数)。