2008/09シーズン初のインフルエンザウイルスAH1亜型の分離について−山口県
(Vol. 29 p. 341: 2008年12月号)

2008/09シーズンにおけるインフルエンザの流行については、第35週(8/25-8/31)〜36週(9/1-9/7)に神奈川県および第36週に栃木県でAH3亜型の集団発生が報告され、また、第41週(10/6-10/12)に大阪府と東京都でB型(Victoria系統)の集団発生が報告されている(IASR 29: 312-314, 2008および本号14ページ14〜15ページ参照)。本格的なシーズンに入る前に、全国各地から集団発生事例が報告されるという、これまでにない状況にある。

このような流行状況の中、山口県内においても、2008年10月にシーズン初発のインフルエンザ様疾患の集団発生があった。感染症統計で調べる限り、山口県内では10月における集団発生事例はここ25年で最も早い発生であった。

2008年10月23日に県中西部の幼稚園において、在籍園児47名のうち5名がインフルエンザ様疾患で欠席し、学園閉鎖の措置がとられた。管轄保健所が、園児が多く受診している医療機関に検体採取の依頼を行い、10月24日に当該医療機関を受診した園児4名から採取された咽頭ぬぐい液4検体が、ウイルス分離同定検査のために当センターに搬入された。

ウイルス分離のためにMDCK細胞に接種するとともに、咽頭ぬぐい液検体からの直接のRT-PCR法によるインフルエンザウイルス遺伝子の検出を試みたところ、4検体中3検体からAH1亜型特異的HA遺伝子が検出された。

一方、MDCK細胞でのウイルス分離では、RT-PCRでウイルス遺伝子が検出された3検体において、2代継代後4日目に明瞭なCPEが観察されたことから培養上清を回収してウイルス分離株とした。この分離株について、国立感染症研究所から分与されたインフルエンザウイルス同定用抗血清を用い、0.75%のモルモット赤血球で赤血球凝集抑制(HI)試験を実施した。なお、HI試験には、2008/09シーズン用の抗血清に加えて、2007/08シーズン用の抗AH1亜型血清(A/Solomon Islands/3/2006抗血清)も用いた。

3株のうち1株は、抗A/Solomon Islands/3/2006(H1N1)血清(ホモ価160)に40、抗A/Brisbane/59/2007(H1N1)血清(同320)に160のHI価を示し、残りの2株は、抗A/Solomon Islands/3/2006(H1N1)血清に20、抗A/Brisbane/59/2007(H1N1)血清に80のHI価を示した。なお、3株とも抗A/Uruguay/716/2007(H3N2)(ホモ価640)、抗B/Brisbane/3/2007(山形系統)(同1,280)、抗B/Malaysia/2506/2004(Victoria系統)(同1,280)の各血清に対しては<10のHI価であり、AH1亜型のインフルエンザウイルスと同定した。

今回の集団発生事例で分離されたAH1亜型のインフルエンザウイルス株は、HI試験の結果から今シーズンのワクチン株であるA/Brisbane/59/2007株に抗原性が類似した株であることが確認された。本格的なインフルエンザシーズン前に各地から集団発生事例が報告されていることも踏まえ、早めのワクチン接種等の感染予防対策を広く周知する必要がある。

山口県環境保健センター 戸田昌一 松本知美 調恒明

今月の表紙へ戻る


IASRのホームページに戻る
Return to the IASR HomePage(English)



ホームへ戻る