広島市における散発性カンピロバクター食中毒の発生状況と分離菌株の血清型、2006〜2008年
(Vol. 31 p. 14-15: 2010年1月号)

カンピロバクターによる腸炎(食中毒)の発生は、世界的な微生物課題であり、わが国においても同様にその発生をいかにして減少させていくかが優先度の高い食品安全課題となっている。広島市においては、1997年より患者数一人の食中毒事例、いわゆる散発事例の届出がなされるようになり、厚生労働省の食中毒統計に計上されているが、その中で、カンピロバクター食中毒が最も届け出数の多い食中毒となっている。

広島市保健所食品保健課によってとりまとめられた2008年の散発性のカンピロバクター食中毒の概要では、(1)届出数202件で、2006年226件、2007年199件とほぼ横ばい状態が3年続いている。(2)年齢構成は、0〜9歳が36.2%で最も多く、10代24.0%、20代17.9%と続き、若年者の割合が多い。(3)症状は下痢100%、発熱84.7%、腹痛77.6%が主症状。(4)食肉類の喫食状況は、1週間以内に74.5%の患者が何らかの食肉を喫食しており、鶏肉が63.0%と最も多く、牛肉は56.2%であった。生食肉の喫食は、19.9%にみられ、牛肉(牛レバー含む)が最も多く64.1%、鶏肉33.3%であった。その喫食場所は、焼肉店、焼き鳥店で89.7%であった。(5)一週間以内に外食の利用があった患者は、25.0%であり、他の患者75.0%は家庭で調理した食品から感染した可能性が推測される、などであり、特徴的な点として、家庭で感染した可能性の割合が高いことである。

そのため、広島市保健所では、焼肉店、焼き鳥店等の飲食店への指導とともに、各家庭に対するリスクコミュニケーション活動を強化しており、ホームページ、市広報誌、テレビ広報番組、携帯電話情報サイト、各対象者向けリーフレット等により、肉と野菜の接触防止、箸の使い分けや加熱の徹底などの感染機会を減らす予防策の普及に努めている。このような食品保健活動の効果であるのかは、さらに経過をみていく必要があるものの、2004年、2005年の届出数が、398件、414件と、400件前後であったものが、上記のとおり、2006年以降3年間は200件台と半減の傾向で推移している。

これらの施策は、食品安全委員会微生物・ウイルス専門調査会から2009年に開示された「微生物・ウイルス評価書(案)鶏肉中のカンピロバクター・ジェジュニ/コリ」中のリスクアナリシス分析の結果にあげられている、生食割合の低減の推進、調理時交差汚染の防止などのリスク低減効果率の高い施策とされるものに合致する指導・啓発活動であるが、さらに発生数の低減を推進していくためには、それらのさらなる徹底を図るとともに、国における全国的な施策の構築との協同的な行政施策の実施が期待される。

ちなみに、本市の患者2名以上のカンピロバクター集団食中毒の発生状況は、2006年3事例、2007年5事例、2008年4事例となっており、大きな増減は認められていない。

当所では、衛生微生物技術協議会のカンピロバクターレファレンスセンターの1支部として、患者から分離されたカンピロバクター菌株を収集し、血清型と薬剤感受性の経年的な把握に努めている。

に、当所で実施した2000〜2008年までの散発患者由来Campylobacter jejuni の血清型別結果を示す。散発患者由来株のほとんどは、広島市中心部およびその周辺部を担う広島市立の1医療機関を受診した下痢症患者から分離されたC. jejuni である。

9年間全体で分離頻度の高い10血清型は、(1)LIO4(21.4%)、(2)LIO7(6.2%)、(3)LIO1(6.1%)、(4)LIO11 (4.6%)、(5)LIO10(4.3%)、(6)LIO28(3.2%)、(7)TCK12(3.2%)、(8)LIO36(3.1%)、(9)TCK26(2.7%)、(10)LIO27(2.2%)であった。一方、2006〜2008年までの最近の3年間では、(1)LIO4(17.1%)、(2)LIO1(7.0%)、(3)LIO28 (5.8%)、(4)LIO10 (5.4%)、(5)LIO11(4.3%)などが高い分離頻度を示した。

この間で、広島市では、LIO7の分離頻度が低くなり、LIO28やLIO10の分離頻度が高くなる(ただし、2008年のLIO10は1株のみ分離)などの傾向がみられたが、全国的には、LIO7、LIO28は以前から比較的高い頻度で分離され、現在も主要な血清型である一方、LIO10は全国的に頻度が上昇してきた血清型である(本号15ページ参照)。

このような広島市および全国におけるカンピロバクター食中毒患者由来株の血清型の頻度や推移がどのようにして起きてくるのかなど、予防疫学的な観点から血清型別結果などの考察を深め、今後の本邦における本菌食中毒のより効果的な予防対策に結びつけていくことが重要である。さらに、本菌食中毒については、将来的には、後発することのあるギランバレー症候群などの神経疾患との関係にも留意した検討を進めることが期待される。

広島市衛生研究所
石村勝之 毛利好江 花木陽子 国井悦子 末永朱美 田中寛子 宮野高光 池田義文
笠間良雄 吉岡嘉暁

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