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Vol.1 (1980/4[002])

<国内情報>
百日せき凝集価について


 百日せき凝集価に関する質問が幾つかの地研よりありましたので 予研・細菌1部.金井部長にデータをまとめていただきました。



 百日せきに罹らないためには抗体価はどのぐらいあればよいのですか。

 血中抗体価(凝集価)はワクチン非接種者における無自覚感染者を知る上で極めて有用である。一方,あらかじめ抗体価の知られているワクチン接種児の家族内曝露時における百日せき感染率をみた研究(Sako:J.Pediat.,30,29,1947)によれば,320倍以上の個体は100%防御(非発症率)されていることが報告されている(表1)。しかし抗体価が10倍であってもなお75%の防御が観察され,非接種児群における10.2%よりもはるかに高い値となっている。Sakoの抗体価は接種3〜4週のピーク時のものであり,また家族内での濃厚感染の条件下であったことをも考えると,防御の指標として320倍にのみこだわる必要はなく,わが国の疫学的現状においては,低凝集価に対してもかなりの評価をしてよいと思われる。

 昭和48年,49年にわたって予防接種リサーチセンターが地方衛生研究所の協力を得て実施した全国的な調査「百日せきの疫学に関する研究」(班長・木村三生夫)において,菌の確認された123名中・百日せきワクチン接種歴の明らかな115名の罹患児における接種歴の分布(表3),また,同時期の一般健康児における接種歴と抗体価分布の関係が示されている(表4)。これら成績を対比しても,40倍,80倍をピークとする凝集価分布を高い防御指標とみなすことができ,20倍以上の凝集価保有率も有力なワクチン接種効果と評価できる。

 凝集価は感染防御抗体を直接表現するものではなく,間接的な指標である。また,わが国の現行ワクチン一回接種量0.5mlの防御力価は7.2国際力価単位に相当し,WHOの示す最少許容レベルである4単位を上まわっているので,その防御効果は相当高いものと考えられる。

 百日せきはなぜ2種類の株について検査するのですか。

 凝集原は血清学的に異る6つの因子から構成されており,そのうち,1.2.3.が主要である。ワクチン株は1.2型であるが,最近の新鮮分離株は1.3型が多いので,集団における自然感染の動向を把握するひとつの手段として,2種類の株を抗原として抗体価をはかる。しかし,この因子型と感染防御性との関係についてはかならずしも見解は一致していない。



金井 興美


表1.凝集素価のあらかじめ知られていた接種児および非接種児の家庭内二次感染における発症とその症状
図2.4回接種群の接種後年数別抗体保有状況
表3.菌陽性の115名の患者における接種歴分布
表4.健康児の各接種群における抗体保有状況





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