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冬期に多発する急性胃腸炎は乳幼児期の主要な疾患の一つであり,ロタウイルスは本疾患の主な病原体であるということが明らかにされている。
ロタウイルスの検査を容易に,しかも迅速に行なうため,当所ではラテックス凝集反応(LA)法および逆受身赤血球凝集反応(RPHA)法を用いている。また電顕による観察も併せておこなっているが,Bishopらの原法を改良し,簡便に試料の調製をしている。以下これらの検査方法について述べる。
LA法では10%糞便乳剤を3,000rpm,20分間遠心した上清,RPHA法ではさらにグルタルアルデハイドで固定したヒツジ赤血球(SRBC)で37℃,30分間incubationを行ないSRBCに対する非特異凝集反応因子を除いたものを試料として用いている。検査は最初にスクリーニングテストを行なう。LA法ではスライドグラスに試料を10μl載せ,これに抗ウシロタウイルス(CRV)抗体感作ラテックスを加えた後1分間撹拌し,ラテックス粒子の凝集が肉眼的に観察されたものを陽性とする。RPHA法ではマイクロプレートを用い,25μlの試料を倍数希釈した後,等量の抗CRV抗体感作SRBC(AC−SRBC)を加えて撹拌する。室温に60分間静置した後,AC−SRBCの凝集が認められたものを陽性とする。いずれの方法でもスクリーニングテストで陽性の試料は抗CRV血清を用いてinhibition testを行ない,特異的な凝集であることを確認している。
電顕の試料の調製法は次のとおりである。10%糞便乳剤を3,000rpm,30分間遠心した上清(T),(T)の処理で不透明な上層をダイフロン処理したもの(U),Sucrose cushion法で部分精製と濃縮を行なったもの(V)をネガティブ染色している。
LA法では試料の希釈を行なわないため,抗原量は測定できないが,調製された試料は3分間で検査結果が判明する利点がある。RPHA法による検査には約2時間必要であるが,試料中の抗原濃度を測定することができる。さらにLA法よりも抗原の検出感度が約8倍優れており,約5×107個/mlのウイルスを検出することができる。これらの検査法の感度を電顕法と比較するとLA法では約2倍,RPHA法では約16倍優れている。
また電顕試料の調製方法を改良することにより,比較的短時間に試料を観察することができるようになり,典型的な白色便性下痢については(T)あるいは(U)の処理だけでウイルスを電顕で観察することが可能となった。
胃腸炎患者の細菌検査は広く行なわれているが,ウイルスの検査はほとんど行なわれていないのが現状である。ロタウイルスについては電顕のない施設においても容易に,しかも迅速に検査ができるようになったので,確実に胃腸炎の診断を行なうためには,細菌検査と併せてウイルス検査も行なう必要がある。
神奈川県衛生研究所 實方 剛
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