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1979年5月17日から30日にかけて,ペンシルバニアの1小児病院の従業員の間で赤痢の集団発生が起った。総従業員の32%に症状があり,嘔吐あるいは下痢を訴えた従業員と訪問者280人について便培養を実施したが,142人(51%)にS.sonnei陽性であった。このため病院では人手に困難をきたし,3日間にわたって入院患者の受入れを中止した。
1700名の従業員にアンケート用紙を配布し,病状と5月16日〜21日の間に摂取した食事について調査した。1093の回答が回収され(64%),分析の結果,病院カフェテリアとの因果関係が示され(P<0.0001),78例の培養陽性者と150人の健康者にもとづいて,病気とまぐろのサラダとの有意な関係(P<0.0001)が見出された。
このカフェテリアで働いていた一女性従業員がこの集発の最初の日である5月17日に下痢をおこしたが,その発病前自宅においてひどい下痢をしていた子供と接触していた。この従業員はS.sonnei陽性で,5月17日,21日の両日,従業員カフェテリアですべてのサラダとサンドウィッチの製造を担当していた。訪問者もここで食事をとっていた。患者発生の2つのピークは5月19日と23日とにあって,食品由来赤痢の潜伏期間が1〜2日であるから,この患者発生状況はよく説明されるのである。
分離赤痢菌株はアンピシリンとテトラサイクリンに耐性であったが,trimethoprimsulfamethoxazoleには感受性である。すべての有症状患者はサルファ感受性であるかぎりこの薬剤あるいはフラゾリドンによる5日間のコースの治療をうけた。
治療中止後すくなくとも48時間を経たのち,1日間隔で直腸便を培養し,3回陰性がつづけば患者従業員は作業が許された。しかしこの間,入院患者からは1例の便菌陽性者もでなかった。
米国では依然として赤痢菌は胃腸疾患の主要原因となっており,1978年もCDCには15336の菌分離が報告されている。伝染は主として人から人へであるが,1961年から1978年までの18年間に,汚染食品による赤痢集団発生が84件報告されている。サルモネラとちがって赤痢菌はヒトを特異的宿主とし,環境における生残性はよわい。汚染食品による赤痢の集発があった場合,汚染源としての食品取扱者をたどりあてることはほとんど常に可能である。この例のように,食品由来の赤痢集発における菌伝播体はサラダなど多くの材料を用いて広範に手を加えるものがふつうである。1966年から1975年にかけての汚染食品による赤痢集発においては,平均発症率は47%であり,平均患者数は148人である。
(WHO WERNo.24,13,June,1980)
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