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Vol.1 (1980/8[006])

<国内情報>
ロタウイルス胃腸炎のサーベイランス


 埼玉県におけるロタウイルス胃腸炎のサーベイランスは,1978年10月から主として浦和市の一小児科医院(この医院は県衛生部並びに浦和市医師会・小児科部会がそれぞれ実施している感染症サーベイランスの2つのステーションを兼ねている)を受診する外来患者のうち,仮性小児コレラ又はウイルス性胃腸炎疑いの乳幼児,学童及びこれらの患児の家族で胃腸炎症状を有する成人を対象とし,急性期に採取された糞便を材料として実施された電子顕微鏡検査の結果に基づいている。

 1979年11月〜1980年4月の浦和市における生後2ヶ月から29才までの患者118人について検査したところ,62人(52.5%)からロタウイルスが検出され,ロタウイルス陰性の患者からはアデノウイルス(9.3%),エンテロウイルス様粒子(3.4%),カリチウイルス(0.8%),その他(3.4%)が観察された。また,6ヵ月のうち月別ロタウイルス陽性率の最も高い月は1月の67.9%であった。

 これらの患者の疾病別ロタウイルス陽性率を見ると,仮性小児コレラは89人中50人(56.2%),胃腸症状を伴う感冒様疾患は26人中11人(42.3%),成人有症者では3人中1人(33.3%)となり,また,これらの患者の年令は,仮性小児コレラにおいて0〜3才,胃腸症状を伴う感冒様疾患では3〜10才であった。なお,成人の1例は29才の母親で,子供から同様ウイルスが検出されている。胃腸症状を伴う感冒様疾患とは浦和市医師会の感染症サーベイランスの対象疾病の1つで,秋から春にかけて流行し,患者発生のピークは冬に見られ,罹患年令は主に幼児及び小学生で,両年令層の発生はほぼ等しい。この疾患の臨床症状は表1に示すように仮性小児コレラと良く似ているが,仮性小児コレラに比べ有熱期間は短かく,下痢及び嘔吐の回数も少なく一般に軽症である。

 ヒト・ロタウイルスの抗原及び抗体に関する検査はcounter immunoelectrophoresis(CIE)によって行った。ロタウイルス感染患児回復期血清及びロタウイルス免疫モルモット血清を用い,糞便から超遠心(30%蔗糖液をクッションとし)で作製したロタウイルス粒子を抗原としていCIEを行ったところ,表2に示すようにA,B(仮称)の2つの血清型に分離された。型別された49株を疾病別に見ると,仮性小児コレラでは92.7%がA型であるのに対し,胃腸症状を伴う感冒様疾患においてはA型37.5%,B型62.5%とB型の方が逆に多くなっている。

 上記2つの血清型のロタウイルス抗原で健康乳幼児血清中の各々に対する抗体をCIE法によって測定してみた。用いられた乳幼児血清は1978年5〜9月に採血された74検体及び1979年8〜10月に採血された51検体,計125検体である。表3に示すように,A型に対する抗体陽性率は0才において50%以下の低率に留まっているが,1才になると急激に上昇し94.7%の高率に達し,この血清型に対する免疫はほぼ完成するかの感を抱かさせる。一方,B型の抗体陽性率は各年令とも10%内外を低迷していることから,B型ロタウイルスの流行はA型に比し極めて稀なものであることが推測される。以上の血清疫学的所見は,前項で述べたロタウイルス胃腸炎の年令階級別(疾病別)に見た血清型分布のちがいと良く符号しているように思われる。



埼玉県衛生研究所 岡田 正次郎


表1.臨床症状の比較(ロタウイルス陽性例)
表2.Counter immunoelectrophoresisによるロタウイルス抗原の分類
表3.2つの血清型に対する年齢別抗体陽性率





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