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Vol.1 (1980/9[007])

<国内情報>
ヘルパンギーナとコクサッキーA群ウイルス


 ヘルパンギーナは毎年夏季になるときまって流行する主に乳幼児の急性熱性疾患である。

 本症はそのほとんどがコクサッキーA群ウイルス(Cox・A)によることはよく知られており,哺乳マウス接種法を用いると患者の咽頭ぬぐい液や糞便抽出液から高率にウイルスを分離することができる。

 図1は横須賀市聖ヨゼフ病院小児科(高宮篤博士)の協力を得て,過去10年間にわたり,毎年100例前後の患者からウイルス分離(哺乳マウス接種法)を行った成績を月別分離数として表わしたものである。本症の流行は毎年多種類のウイルスによってひき起こされるが,これまでに分離されたCox・Aは2,3,4,5,6,8,10型に限られ,このうち2,4,5,6,10型が交互にその年の主流ウイルスとなっている。本年の場合は現在までのところ2,4,5,6,10型が検出され,このうち4型が主病原のようである。また,これらのウイルスは分離数こそ少ないが,冬季においてもヒトからヒトへ継代されていることがうかがえる。3型は1972年にはじめて分離され,その後の流行が懸念されたが,現在までのところ大流行を起すには至っておらず,他型に比較し,伝播力の弱いウイルスといえるかもしれない。ただ,このウイルスは8型と抗原交叉があるため,同定にあたっては注意する必要がある。

 本症からはこの他,細胞培養を用いてコクサッキーA9,16,コクサッキーB群,エコーウイルス等が分離され,Cox・Aの分離率の低い年次にはコクサッキーB群やエコーウイルスが多く分離される傾向にある。

 ヘルパンギーナの場合,再罹患した例をよく経験する。表1はその一部についてウイルス分離成績を例示したものである。No.1は2型が分離されてから16日後に10型が分離され,No.2はわずか3年の間に4つの型のCox・Aに感染している。このように,多くの小児は誕生して数年の間にいくつものCox・Aに感染するものと考えられる。一方,No.3〜5は再罹患の際,前のときと同型のウイルスが分離された例である。No.3は35日後,No.4,5の場合は1年後の再罹患時にそれぞれ同型のウイルスが分離されている。ウイルス分離の結果のみから再感染の問題を論ずるわけにはいかないが,Cox・Aの排泄期間は一般に30日前後とされ,われわれの調査でも3週間以内でほぼ糞便中に排泄をみなくなることを考えると,甚だ興味の持たれる成績である。

 Cox・Aはヘルパンギーナを含め,多彩な症状を呈することはよく知られているが,病原性に関して十分な調査が行われているとはいえず,また,これまで分離報告のないウイルス型がわが国に浸いんしているのかどうかなど,未知の部分の多いウイルスであるといえよう。



神奈川県衛生研究所ウイルス部 鈴木 利壽


図1.ヘルパンギーナ患者からのウイルス分離成績(1970〜1980)
表1.ヘルパンギーナ再罹患例からのウイルス分離成績





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