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Vol.1 (1980/9[007])

<国内情報>
Salmonella naestvedによる食中毒例


 Salmonella naestved(以下S.naestved)は,わが国では牛のチフス症の起因菌として報告(1978年,滋賀県)されているが,1979年6月,愛知県東海市において,国内ではじめてと思われるS.naestvedによる食中毒が発生したので,その発生概要及び検査結果を紹介する。

 発生概要:6月16日19時30分から東海市内の焼肉店で,親戚の3家族15名が焼肉を主体とした牛肉料理を摂食し,うち12名が翌17日に発病した。潜伏時間は7〜25時間,多発時間は7〜12時間であり,主要症状は下痢,発熱,嘔気,嘔吐,腹痛,頭痛である。下痢は水様性で,排便回数は2〜20回,嘔吐は1〜6回,発熱は多くが39℃台の高熱であった。

 摂食した食品は,焼肉料理(牛ホルモン,ロース,カルビ,タン,イカ),ゴマだれに入れた生食用の牛ユッケ,酢みそあえの牛センマイ,サラダ,キムチである。各食品のうち牛肉類は,岐阜県下の屠畜場で解体されたものであり,イカとサラダ,キムチ用の野菜は,東海市内のスーパーで購入されたものである。

 細菌学的検査:菌検索の結果,患者6名中5名の大便,患者1名の吐物,食べ残しの焼肉1件,原材料6件中4件(ホルモン,ロース,タン,ユッケ),キムチ,調理台・包丁からS.naestved(1,9,12:g,p,s)が分離された。分離株は,いずれも同一の生化学的性状及び耐性パターン(cp,TC耐性)を示した。

 本食中毒は,食べ残しの焼肉や生食用のユッケからS.naestvedが検出されたことから,加熱の不十分な焼肉や生食品の摂食により発生したものと推定された。

 本事例の原因食肉の汚染経路は不明であった。ただ,わが国では,これまでにヒト,食品,環境等からのS.naestvedの分離例はないし,当該屠畜場が滋賀県に極めて近い位置にあることから,最初に述べたチフス症とのかかわりも否定できないと考えられる。

 (分離株の菌型を決定していただきました予研坂崎利一博士に厚くお礼申し上げます)



愛知県衛生研究所 中村 章





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