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1976年7月フィラデルフィア市で開催された全米在郷軍人大会に当って,突発的に発生した急性肺炎の病原はCDCのMcDadeらにより分離され,Brennerらによりまったく新しい病原菌であることが確認された。彼らによってこの菌の科名はLegionellaceae,属・種名はLegionella pneumophilaと提案されて現在この学名が用いられている。
在郷軍人病発生の特異な点から,L.pneumophilaは極めて病原性の強い菌と考えられ,その扱いも特に慎重にするよう注意されていたが,意外にもこの菌は土じょう細菌の一種であることは間違いなく,ヒトからヒトへ直接伝播するほど強い感染力をもっていない菌であることが明らかになった。米・欧諸国ではすでに1,000名をはるかにこえる集団・散発発生患者がある。特に免疫機能の低下した患者の多い概して大規模病院では,いつ発生するか予測できない危険性がある。わが国では東京都荏原病院と都立衛生研究所の協同調査により本症を推定させる1症例がみつかっている。わが国の発生対策としてのL.pneumophila感染の検査法の要点を紹介してみたい。
患者の細菌学的診断法としては,血中抗体価による推定診断と病原菌分離の2法が主体である。
1.抗体価測定法
間接蛍光抗体法により抗体価を測定する方法が一般的である。L.pneumophilaは現在6血清群に分けられている。血清群3と6とは交叉反応性があるため血清群としての独立性に異論はあるが,現段階では別個のものとして扱うのが妥当である。各血清群の代表抗原としてはPhiladelphia 1(血清群1),Togus 1(群2),Blommington 2(群3),Los Angeles 1(群4),Cambridge 2(群5)およびChicago 2(群6)を用いる。
方法:寒天平板培地培養の加熱死菌体を0.5%normal yolk sac(NYS)を含む精製水に所定量溶かして抗原とし,これを顕微鏡用スライドグラスの各穴に充分量分注,風乾,アセトン・バスで固定する。
被検血清は0.01Mリン酸緩衝食塩液pH7.6(PBS)に2.5〜3.0%NYSを溶かした液で1:16に希釈,単純PBSで1:2048まで2倍連続希釈し,各希釈液の1滴を抗原固定穴に注加,37℃30分間,湿潤箱に放置,これにFITC−ラベル抗ヒトIgの1滴を加え30分間反応させ,反応後処理ののち蛍光顕微鏡で染色度を観察判定する。血清希釈64倍以上を陽性とする。
2.病巣材料からの菌の検出
1)直接蛍光抗体法で常法にしたがって観察判定する。2)病巣検体,吸引採取分泌物,濃厚咯痰などの塗沫標本をDieterle塗銀法染色で観察する。剖検材料などでは顕微鏡観察で菌を認めることは困難ではない。しかし,細菌学的には当然,菌の分離によって決定する。ただし顕微鏡的に陰性のときは他の病原の検索に重点を移す。
菌分離法
使用培地:本菌にはチステインが必須栄養素であるので,いずれの培地にもこれを加える。常用培地としては@Mueller−Hington変法寒天,AF−G(Feely and Gormanら)寒天,BCYE寒天,がある。FA法で陽性検体についてはいずれか2つの培地を併用して直接分離培養を試みる。陽性の場合は,検体を濃厚に塗沫したところには,2.5%CO2,37℃,3〜4日で小さな集落が多数認められる。しかし,2分裂時間が130±20分と著しく長いので,4〜7日しないと孤立集落は観察できない。発育菌は標準L.pneumophila株と対比し直接FA法で決定する。FA法で陰性で分離培養された菌については特に慎重に同定する。直接FA法で陽性だが直接分離できなかったときは,つぎの動物体通過によりFA判定,菌分離を試みる。
モルモット接種:磨砕組織などの検体をPBS5mlで希釈,その1mlを600gの雄モルモット4匹の腹腔内に接種する。10日間,39.5℃以上の発熱,その他の臨床症状を毎日観察し,この体温以上の発熱がみられたらその翌日屠殺し,脾臓を切除,その一部を磨砕し,PBSで10%検体乳剤を作る。供試4匹中の一部を血清反応検査のために残し,4週後まで血清採取して抗体価の変動をみる。
発育鶏卵接種:検体浮剤をさらに1%乳剤に希釈し,12個の6〜7日齢の発育鶏卵にその0.5mlを常法にしたがって接種する。接種後4〜10日で死亡した卵の感染卵黄嚢を集める。
これについて,FA法,塗銀法などで観察するとともに直接FA法で血清群を決定する。一方,分離培養により菌分離を行ない,分離菌について詳細に同定検査する。
以上のように患者検体についての本菌の検査は進めるが,集団発生時などでは,水,土壌,その他疑わしい検体を集め,前処理したのち患者検体からの方法に準じて,菌検出,同定を進める。
杏林大学微生物 善養寺 浩
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