|
名古屋市内の河川及び下水のウイルス汚染の実態を把握するため,2年間にわたり,ウイルス分離を行ってきた。分離方法に簡便な濃縮法をとり入れ,効果をあげたので紹介する。
調査箇所は,河川10箇所,下水4箇所で月1度採水し,1978年10月から1980年9月まで行った。採水は,50gの脱脂綿をガーゼに包み滅菌後,河川及び下水中に5日間浸し回収した。回収後,脱脂綿をビーカー上でしぼり出すと,約200mlの検水が得られた。そこで,非濃縮法として,10倍濃度のイーグル液1mlに対して検水9mlを加え,3000rpm30分4℃,10000rpm30分4℃の除菌操作の後,抗生物質を加え接種材料とした。濃縮法として,残りの検水を透析膜(型36/32)に,ビーカーの底の沈渣を除き全量入れ,適当な容器に並べ,ポリエチレングリコール(分子量6000)を500g加え4℃で一夜放置し脱水した。翌日,脱水した透析膜の表面のポリエチレングリコールを洗い落し,水を切った後イーグル液2mlを加え,内容物をよく洗い出し,除菌操作を前述の方法で行った。細胞はHeLa,Vero,FL,MA104,MDCKの各細胞を用い,モノシートになった試験管をイーグル液で洗い,接種材料0.2mlを加え,1時間吸着の後,新しいイーグル液を加え37℃で回転培養した。MDCK細胞には5μg/mlになるようにトリプシン(シグマ社2回結晶)添加イーグル液で培養した。細菌等の汚染があった場合,450nmのフィルター(ザートリウス)でろ過した。細胞は3代まで継代した。
分離結果は表1に示すように,検出ウイルスの数は河川311箇所中143,下水94箇所中178で,いずれもレオウイルスが大量に分離された。河川ではレオウイルスが大部分を占めたが,下水ではレオウイルス以外のウイルスも比較的多く分離された。また,下水では1箇所で5種類のウイルスが分離されることもあった。レオウイルスの分離率を月別に比較してみると,初冬の11月ごろから高まり,冬がピークで,夏の6月まで続いた。夏の暑い季節7月から9月にかけて分離率は下った。ポリオウイルスの分離は,ワクチン接種月,またはその後1〜2ヶ月に集中したが,3ヶ月後まで分離が可能であった。アデノウイルスは年間を通じて分離された。
濃縮法と非濃縮法の結果を表2に示した。濃縮法は非濃縮法と比較して3.3倍の高い分離率を得た。ポリオウイルス,アデノウイルス2型はあまり差が認められなかったが,レオウイルス,コクサッキーウイルス,エコーウイルス,アデノウイルス5型等は,明らかに濃縮法が高い分離率を示した。
分離ウイルスの細胞感受性は,表3に示すようにかなり異なり,レオウイルスはトリプシン添加MDCK,MA104,Vero,エンテロウイルスは,FL,Vero,MA104,アデノウイルスはHeLaの各細胞からよく分離できた。トリプシン添加MDCK細胞ではレオウイルスしか分離できなかったが,分離率が高いこと,またCPEが他の細胞より極めて早いことから,レオウイルスの分離に都合のよい細胞であった。
河川からの分離では,下水処理水の放出箇所,生活汚水の排出箇所の下流からよく分離できた。また,河川に堰がある場合,その上流の流れのゆるやかな場所より下流の流れのある場所の方がよく分離できた。下水では背後に大団地をひかえている所の分離率は著しく高かった。
今回大量に分離されたレオウイルスは,通常のサーベーランスでは分離報告例の少ない部類に入るウイルスである。にもかかわらず大量に分離されたことは,その汚染源が人あるいは人以外のものなのか,また単に一過性のものなのか,あるいは常在的なものか,興味のあるところである。
名古屋市衛生研究所 川原 真
表1.河川及び下水からの分離ウイルス
表2.濃縮法と非濃縮法の比較
表3.分離ウイルスの細胞感受性
|