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昨年の9月,文京区を中心に小規模ではあるが東京都内では池之端文化センターの事例についで第2例目に当るコレラの集団発生(罹患者7名)があったので,以下その概要について紹介する。
発生経過:本事例は,昨年9月18日に中野区で65才の男性がコレラ患者と診定されたのを端緒とする。ついで,文京区において9月23日,24日に患者2名(79才,女及び61才男)が同区内のA宅で9月13日に開かれた誕生パーティー出席者のなかに発見され,また24日にはそれらとは別に北区でも1名のコレラ患者(67才,男)が発生した。その後,文京区のB家で9月13日に行なわれた葬儀出席者のなかに下痢患者のいることが判明し,それら関係者の検便を実施したところ,同月28日〜29日にさらに3名のコレラ保菌者(39才男,44才女及び40才女,うち1名は横浜市在住)が発見された。これらからの検出菌はすべて同じ性状を有するエルトール型コレラ菌イナバ型であり,罹患者7名及びその家族はいずれも海外渡航歴をもたなかった。
疫学的・細菌学的調査成績:上記の状況から,本事例は国内における集団感染例と判断し,罹患者相互の関係,感染源,感染経路等の調査が進められた。その結果,中野区及び北区の2名は入念な調査にもかかわらず文京区関係の5名とは直接の関係性は見い出すことができなかった。しかし,文京区における誕生パーティーの2名と葬儀関係の3名は,相互に関係はなかったものの,それぞれが出席当日喫食した料理が同区内の同じ飲食店から提供されていること,また料理に刺身などの生魚介類が用いられている点で共通性のあることが判明し,感染源として注目された。そこで,これらパーティー及び葬儀出席者について喫食調査を行うと同時に,飲食店保管中の参考食品(残品はすでになし),従業員等を対象に細菌学的検査を実施し,感染源,感染経路の追求につとめたが,それらを特定しうる十分な知見は得られなかった。
一方,文京区との関係が認められなかった中野区及び北区の2名も,発病前にすしなどの生魚介類を喫食していること,また事件の発生当時わが国が生鮮魚介類の相当量を輸入している韓国でコレラの流行があったことから,文京区の関係も含め提供された生魚介類の購入ルートや流通経路の調査,また関連材料の検査も実施されたが,それらからも原因を推定しうる根拠は得ることができなかった。
幸に二次感染を起すことなく流行は終熄した。
都立衛生研究所 工藤泰雄
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