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Vol.2 (1981/5[015])

<国内情報>
コレラの発生例について


私どもは本年(昭和56年1月〜4月)までの間に2例(患者,保菌者4名)のコレラ発生を経験しているが,これらはいづれも検疫所の通報によるものではなく,一般病院からの届出により当研究所で検査の結果,コレラ菌が分離されたものである。

1月23日の事例はフィリピン観光旅行に行き,帰宅直後,激しい下痢症状を呈し,某病院に来院した,担当医は臨床症状並びに渡航先等から判断してコレラの疑いとして届出,その結果,稲葉型のコレラ菌が検出されたので,同行者及び家族について検索を行ったところ,同行者からはコレラ菌は確認できなかったが,家族より二次感染と考えられる保菌者が1名発見された。

2月23日の事例は前事例同様,フィリピンから帰国直後,激しい下痢症状を示して某病院で医師の診察をうけその結果,臨床症状及び渡航先等から判断して疑似コレラとして届出がなされ,検査の結果,稲葉型のコレラ菌が確認された事例であり,この場合も同行者並びに家族に対して菌検索を実施したが家族からはコレラ菌は検出されず,同行者より1名コレラ菌が分離された。この事例の最初の患者は(私は二度マニラのSan Lazaro病院を訪ずれコレラの重症患者を少なからず観察しているが)臨床症状特に下痢便の性状はコメのとぎ汁様であり,典型的コレラ患者であった。この事例ではコレラ菌のほかに腸炎ビブリオK−57が2名とも検出された,この2名は疫学的調査の結果,旅行中は同室でその行動も常に一緒であったとのことである。この様に検疫所ではチェックされずに入国するコレラ患者あるいは保菌者が多数あるものと推察される。一部の人にはコレラ菌は問題にすることはないと話しているのを見うけるが,私どもが経験した事例のように典型的な臨床症状を示す患者もあり,やはり注意が必要と思われる。

本県では度々コレラの報告がなされるが,他の都道府県でも本県同様汚染地区への渡航者が多数あるものと推察される。従ってそれらの人の中にも患者,保菌者が存在するものと考えられる。しかし,報告例の少ない理由はどこに原因があるのであろうか?。又,患者,保菌者が何等の制約もなしにそのまま放置されると仮定したならば,今後の輸入伝染病に対する防疫上極めて憂慮すべき問題と考える。



福島県衛生公害研究所 佐久間文久





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