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百日咳T相死菌体がヒトの百日咳の予防にワクチンとして使用されてから既に40数年を経過した。周知の如く,現行百日せきワクチンは,その有効性は十分に認められてはいるが,副反応のつよいワクチンの部類に属し,より安全性の高い百日せきワクチンの出現が長年世界各国で切望されて来た。
わが国においても,一般に,ワクチンの副反応の問題が社会的関心を強める中にあって,1970年代なかばに百日せきワクチンによる死亡事故に遭遇し,ワクチン接種率が著しく低下した。この接種率の低下を追って百日咳患者が急増し,ワクチンの重要性が再認識されるとともに,副作用の少ない百日せきワクチンの開発が更に望まれるようになった。
ところで,予研では百日せきの防御抗原および毒性物質に関する研究が既に10数年前から進められて来たが,これらの研究を足がかりに,改良百日せきワクチン研究班が組織され,多くの基礎,臨床研究者の参画の下で数年に亘る開発研究が実り,1981年秋から,旧来の全菌体ワクチンに代り,「沈降精製百日せきワクチン」または「沈降精製百日せき・ジフテリア・破傷風混合ワクチン」として予防接種に採用されることになった。
ところで,我が国において新しく開発されたこの百日せきワクチンとは,百日咳菌の産生する防御抗原である2種類の赤血球凝集素すなわち,Filamentous-Hemagglutinin;F−HAとLeukocytosis Promoting Factor-Hemagglutinin;LPF−HA(この見解は必ずしも統一されてはいないが)を含む分画を,本菌液体培養上清から,硫安塩析,庶糖密度勾配遠心を組合せて効率よく回収精製し,一方,本菌の産生する副反応特に発熱等に関与する内毒素(Endotoxin)を,この防御抗原画分から可及的に遠心分離ときに除去したこと,および防御抗原ではあるが,毒性を有する一方のHA成分(LPF−HA)は温和なホルマリンによるトキソイド化を行い,さらに少量のアルミニウムをアジュバントとして添加した,いわゆる沈降型のコンポーネントワクチンである。動物実験による詳細な試験の結果,有効性は現行全菌体または,国際防御単位レベルを十分に保持しており,一方毒性は1/10以下になっているものである。
これまでの数千例に及ぶ野外臨床試験の結果も,現行ワクチンに比較し,発熱率は1/10以下,局所反応は1/3以下であり,特に発熱に関してはほとんど問題とならない結果であった。また,これに伴う熱性けいれん等の副反応は一例も認められていない。なお,ヒトにおける改良ワクチンの有効性については,少数例でその防御効果が確認されてはいるが,試験的に使用され始めてからでも期間が短く,今後の長期に亘るサーベイランスの結果をまちたい。
最後に,現在行われている菌凝集反応にかわる抗体検出の問題は今後の重要な課題であり,2種類のHA抗原や感作プレート等の供給をも含め,検討中である。
予研 佐藤勇治
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