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ひとのペスト菌感染源としては珍しい例であるが,最近飼いねこと関連した2例のペスト症例が報告され,そのうち1例は致死例であった。これまで6例の飼いねこ関連ペスト症が記録されたことになる。
第1の患者は47才の女性でカリフォルニアのタホに住み,1980年の10月2日に悪寒,発熱,そして右側の胸痛を伴って発病した。その夜嘔吐と下痢があり,呼吸困難を訴えた。翌日,乾咳がでるようになり,医師の診察を受けた。検尿により膿と菌の存在を認めた。尿路感染症の推定で6時間ごとにテトラサイクリン250mgが投与された。彼女はその日のうちに2回,翌日に2回内服したところで夕方入院し,その頃までに咳がひどくなっていた。入院時は病状は急性であり,呼吸数40でチアノーゼが著明であった。すべての肺野でラッセルが聞こえたが,りんぱ腺の腫脹や皮膚病巣は認められなかった。白血球数は900/mm3であった。胸部レントゲン写真は右側肺が全く混濁し,左上葉にも浸潤があった。抗生物質の投与にもかかわらず,患者は入院後4時間半で死亡した。喀痰培養と剖検による肺材料培養によってペスト菌を検出した。
発病前の9月24日,彼女のペットの飼いねこが死んだリスをくわえてきた。26日にねこは具合が悪くなり,騒がしく呼吸をし,咳をし,そして鼻から血液を混じえた分泌物を出した。29日にねこは死亡し,埋葬された。患者の死後,ねこの死体はあばかれて,左の下顎りんぱ腺腫脹を伴った両側性の出血性肺炎であったことがわかった。それからペスト菌が分離培養された。
もうひとつの症例はコロラドのエバグリーンに住む49才の獣医である。1981年4月15日,悪寒,発熱,めまい,そして右の腋下に痛みのある腫脹を覚えた。4月18日からは1日4回,500mgのテトラサイクリンの服用を開始した。19日には39.8℃の発熱の状態で入院し,その際右の腋下に3ラ3cm程の大きさのやわらかいりんぱ腺を触れることができた。野兔病が一番に疑われ,上述のテトラサイクリン投与に加えて,4時間に2gのOxacillinが与えられた。36時間以内に患者の症状は改善し,4月24日にはテトラサイクリン内服の処方をもって退院した。入院中,りんぱ腺材料の蛍光抗体試験と生化学試験によってペスト菌を証明した。受身血球凝集反応による抗体価は,4月24日は32倍,5月12日は128倍であった。
この獣医はおそらく発病2日前,彼がじゃらしていた飼いねこから感染したものと思われる。このねこは下顎部に膿瘍があって,彼の右手のおや指とひとさし指との間にかみついたことがあった。そこで膿瘍はネオマイシンの潅流とペニシリンの筋注で治療された。ねこの5月5日における抗体価は8192倍以上であった。
(MMWR,Vol. 30/No. 22/6月12日,1981)
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