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福島県における今年の食中毒例は,某ホテル(飯坂温泉)の総計433名を数える比較的大規模な発生で代表される。中毒の発生は7月14日が中心であり,このホテルの収容人員は1200名で,常時900名程度の宿泊者があるため罹患者も広範囲にわたった。主徴は腹痛,下痢,嘔吐であり,帰路途中,重傷者は県内各地の病院に入院加療する状況であった。
われわれは発生と同時に県内各保健所より送付される患者の下痢便,吐物等86件,ホテルの調理場より収去された今回の中毒に関係があると推定される食品113件について許される範囲内で細菌学的検査を実施した結果,患者の下痢便,吐物より直接塗沫培養で純培養状に腸炎ビブリオK−10(O−4)型を検出することができた。また,食品からは貯蔵されていたマグロ(このホテルは1日平均10kg程度を刺身として提供する)より同型菌を検出することができたので,摂食調査とあわせて検討した結果,原因食品はマグロの刺身と推定される腸炎ビブリオによる食中毒と判断した。
この事例で考えられることは,臨床症状も極めて激症であり,原因食も分離培養で簡単に得られたことは,食中毒の発生と摂取菌量との関係には大変興味深いものがあることを改めて認識した。
また,このホテルの調理場等はすぐれた施設を有しているが,原材料の汚染,宿泊者数が多いため実際に調理されたものを摂食するまでにはかなりの時間経過などがあることを考えあわせると食中毒の安全対策は望めるものなのであろうか?
その後,一週間内に本食中毒を契機として腸炎ビブリオK−8(O−4)型による2つの発生例を経験した。従って本県における今年度の中毒は腸炎ビブリオによるごく一般的な細菌によるものが多かったということができる。更に,腸炎ビブリオについて本県で問題となったのは,本県産のアサリ貝による食中毒の発生であった。7月下旬になってアサリ貝による中毒発生例が報告されるようになり,当初腸炎ビブリオに起因する中毒が多かったことから,腸炎ビブリオに汚染されたアサリ貝から2次的に他の食品が汚染をうけて中毒が起きるのではないかとの疑いを持ち,調査をすすめていたが,ビブリオ属は検出されず,下痢性貝毒が検出され,中毒の原因が貝毒であることが判明した。本県においてここ数年来,貝類の安全対策を実施しているが,アサリ貝より下痢性貝毒が検出されたことははじめてであり,この毒化の原因も冷塩水域の影響によるものなのかどうか,今後の調査課題が残された。また,現在行われている貝毒検査方法についても,検査結果の評価が妥当なものなのか検討を加えるべき問題が残されているのではないか,疑問を持つのは筆者だけであろうか?
福島県衛生公害研究所 佐久間文久
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