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Vol.2 (1981/10[020])

<国内情報>
C. perfringensによる集団食中毒事例について


法定伝染病の急激な減少に比較して,食中毒は最近5年間における全国統計では件数のゆるやかな減少傾向はみられるが,患者数の減少はあまり認められない。当県においても全国的傾向とほぼ同様な状況にあるが,本年は8月31日現在,すでに813人の患者(20事例)が確認され,過去10年間でも最高である。これは3例の100人以上におよぶ大規模な集団発生が含まれているためである。中でも4月に発生した原因が病院の給食であった事例は患者が入院患者である特異的なケースであると思われる。

本事例発生の探知は4月14日某病院から,病院の入院患者,付添いおよび病院職員等多数が13日夜から下痢腹痛等の食中毒症状を呈している旨,所轄保健所に届出があった。この病院は成人病あるいは交通事故等による後遺症のためのリハビリテーションセンターであるため,食中毒患者338名中60才以上の老人が51.2%と過半数を占めていることが特徴のひとつであった。

推定原因食追求のためマスターテーブルからχ2検定を行ったが,摂食者数が多いため,すべての食品が1%の危険率で有意の値を示してしまった。そこで,クラメールの関連係数(φ係数)を調べた結果,大根・干ニシン等の味噌煮が最も強い相関を示した。比率の差の検定(t値)においても本食品が原因菌として推定された。

本食中毒の発病率は338/ 535(63.2%),潜伏時間は3〜20時間(平均8時間50分),主症状は下痢1〜16回(97.9%),腹痛(68.6%)が主であり,その他は倦怠感(25.4%),裏急後重(24.0%),脱力感(18.6%)等であったが,嘔吐,発熱はほとんど認められなかった。便性は水様(88.7%)がほとんどで,粘液便あるいは粘血便もわずかに認められた。

細菌学的検査は患者便26検体を検査し,すべてからC. perfringens(耐熱性A型,Hobbs2型)が103〜107/g検出された。食品(12日と13日の食事)および調理器具のふきとりの検査では13日夕食の大根・干ニシン等の味噌煮のみから患者と同型のC. perfringensを106/g検出した。なお,患者および食品等から,他の既知食中毒原因菌は検出されなかった。以上のことから本食中毒はC. perfringensによるものと決定した。本事例は味噌煮の調理過程に問題があった。すなわち,前日に3時間の煮込みを行った後に22時間も室温(20〜25℃)に放置し,当日再加熱を30分行い,2時間30分後に摂食した。入院患者に老人,病弱者が多いことを考慮して,食品を軟かくしようと前日に煮込みをしたことが災いし,原材料又は室温放置の際,調理器具等からC. perfringensの汚染があったものと考えられる。

又,C. perfringens食中毒は本年2月にも某スキー場の旅館において110人(発病率28.2%)の患者発生をみた事例があり,本事例も前日調理した食品を摂食まで室温に放置したことが下人であると推測された。

以上の2事例とも調理従事者の食品衛生に対する認識不足が大きな原因と考えられ,所轄保健所から施設および食品等の管理,取扱いに対する厳重な指示がなされた。



長野県衛生公害研究所 村松紘一





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