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最近埼玉県に発生した食中毒で病原細菌が不明な集団発生のうち,2件から抗原的に同一と考えられる直径28〜32nmのウイルス粒子が検出された。その1つはすしが原因食品となった食中毒集団発生例である。
1980年12月14日久喜市の一地区で子供会の会合があり,その昼食に出されたすしを食べ,嘔気,嘔吐を主症状とする患者が発生した。この子供会の会員はE小学校の児童78人(1〜6年)で,当日子供会に出席した児童は68人であったが,欠席者10人にも同じ食品が各家庭に配達され,また,出席者も食べ残した食品を家に持ち帰ったため,家族内にも患者が発生した。喫食者のうち小学生の発病率は55.1%(78人中43人),家族(幼児から老人まで)の発病率は27.9%(43人中12人)であり,患者55人の潜伏時間は最短5時間,最長48時間,平均29.8時間であった。問題のすしは油あげ,のり巻,卵巻の3種であったが,なかでものり巻に対する嫌疑が最も高かった。患者15人(小学生14人,中学生1人)及びすしを作った従業員4人(健康者)から同月17日採便された19検体について細菌学的検査が行われたが,病原細菌は検出されなかった。患者15人の糞便のうち,量不足の4検体を除く11検体につき電顕で調べたところ,Norwalk因子の形態に似た直径28〜32nmのウイルス粒子を直接法で3検体,また,患者回復期血清による免疫電顕法で2検体,計5検体(陽性率45%)から検出することができたが,従業員4人はすべて陰性であった。
第2の集団発生は,1979年6月大井町O中学校3年生(276人)が京都,奈良の修学旅行から帰省後発病し,患者は100人を越す集団発生となった。保健所は食中毒として調査したが,病原細菌は発見されず,また,感染場所が他県のこともあり原因不明のまま終息した。当時,患者糞便を2検体づつプールし,電顕で見たところ,1試料に直径28〜30nmのウイルス粒子を認めたが,他の2試料は陰性であったため,それ以上の追求を断念した。今年7月,当時撮影された電顕写真を前述の久喜市のそれと比較したところ,形態が良く似ているので再検査を行った。当時の患者糞便は−20℃の冷凍庫に保存されてあったので,一部につき久喜市発生例の患者回復期血清による免疫電顕法を試みたところ,直説法では判定困難なものが,凝集塊の形成により,容易に陽性と判断できることがわかり,再検査は専らこの方法に従った。その結果,患者16人中13人(陽性率81%)からこれらの患者血清に反応するウイルス粒子を検出し,塩化セシウム中の浮上密度は1.38g/cm3付近にあることも明らかとなった。
埼玉県衛生研究所 岡田正次郎
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