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Vol.2 (1981/12[022])

<国内情報>
AHCウイルスの分離について


三重県では桑名市の眼科医院を定点として12ヶ年にわたって結膜炎患者からのウイルス分離を続けている。12ヶ年間に結膜炎患者から分離したウイルスはAdeno3,4,5,6,7,8型,Echo 14型およびAHCウイルスである。

本年に入って結膜炎患者からAdenoウイルス3型が数多く分離されているが,眼科や小児科では,その原因がAdenoウイルスかAHCウイルスかで興味がもたれているので本年の結膜炎患者からのウイルス分離について報告する。

1〜10月迄に結膜炎患者から分離したウイルスはAHC11/62 17.7%,Adeno6/62 9.7%で,AHCウイルスの方が分離率が高いが,これはAHCウイルス分離を目的として検査材料を採取しているためと思われる。Adenoウイルスは総て3型である。3型ウイルスは県下の小児科医師から届けられる他の疾病(アンギーナ,急性胃腸炎,不明熱,気性気管支炎,咽頭結膜熱等)材料からも分離している。AHCウイルスの月別分離数は3月1例,4月1例,6月4例,7月1例,8月1例,9月2例,10月1例の11例である。臨床診断にあたられている丹羽医師の話では,AHCは例年秋〜初冬に多いとのことである。

AHCウイルスの分離材料は結膜のぬぐいもしくは眼脂である。これを2mlのEagle液に浸出させて,上清をHeLa,HEL及びMK細胞に接種し,培養温度35℃で10日間,2代まで継代して判定している。HELとMK細胞を使用した1−10月までの両者の分離率はHEL23.4%,MK12.7%でややHEL細胞の方が優れている。

結膜炎患者から分離されるウイルスのAdenoとAHCの区別は,CPEの段階で容易である。MK細胞では細胞の円形と瓢箪形化,HEL細胞では糸屑状,進んで菱形化のCPEを認める。MK,HeLaおよびHEL細胞のAHCウイルス感受性に関する性状については,T673株は,この三つの細胞総てに明瞭なCPEを呈するが,他にMK細胞やHeLa細胞にしかCPEを示さないウイルス株もある。HEL細胞にCPEを示すウイルス株はMKやHeLa細胞にもCPEを示す株が多いようである。

AHCウイルスは分離当初からtsウイルスとして発見されたが,10年後に分離されている殆んどのウイルスもそうである。発見当初の典型的な症状であった結膜下の出血は,現在では少なくなっている。AHCウイルス分離患者で結膜下出血を認めた例は4/11,36.6%と1971年の流行当時と比べて大きく違っていることがわかる。

臨床症状の変化は細胞の感受性・増殖温度等のウイルス性状の変化に結びつくものかどうか興味のあるところである。



三重県衛生研究所 桜井悠郎





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