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Vol.3 (1982/1[023])

<国内情報>
ウイルス性結膜炎の病原検索


新種のウイルスであるEV70のわが国での侵入後の動向追跡と,東南アジア諸国では繰り返し結膜炎の流行をひきおこしているが,わが国には未侵入と思われるCA24ウイルスの監視の目的から,札幌では1974年より市内眼科医グループとウイルス性結膜炎の共同研究を行っており,その病原学的,臨床的成績についてはすでに眼科領域で発表してきた。1),2),3),4)疾患対象はただAHCにとどまることなく,EKCやPCF,その他ウイルス性(角)結膜炎と思われるものを流行や多発にとらわれることなく,年間通して行っている。実際に第一線の眼科診療所では,これらの疾患は院内流行の点からも眼科医にとって重大である。一般にこれらの臨床診断は流行の際は比較的容易であるが,非多発期や散発例,臨床的不全例では必ずしも容易でなく,見逃され,しばしばその後に院内発生や多発をまねくことが少なくない。しかも実際には,きわめて急性期の限られた期間しか受診しない大部分のAHC,PCF,EKCの患者において,初診時にその臨床診断を下すことは困難なことが多い。これまでの病原・臨床対比研究から,EV70感染(AHC)でも特徴的な結膜下出血の所見を欠く症例も少なくなく(特に60才以上年長者や幼児),また反面,ある種のアデノウイルス感染の場合に,時として球結膜下に小出血点(あるいは大出血斑)を伴うこともあり,これらの疾患の臨床診断や鑑別は難しいのが現状である。このようにサーベイランス上,患者対象の選出にあたって実際には,臨床上問題あるのが現状と思われる。

1974年〜80年までの7年間のウイルス性結膜炎の病原分析の成績を表1に示した。EV70感染は毎年ではないが,周期的に発生しており(1981年分は後述),Ad4,Ad19は近年分離されることが多く,ウイルス性結膜炎の病因として,従来のAd8,Ad3の他に注目する必要があると思われる。

1981年のEV70感染(AHC)は,80年11月末に臨床的にAHCの11名のうち5例にEV70分離を含む病原確認例を認めた。その後,1981年に入っても,毎月8月までは病原的に確実なEV70感染を経験している。2月中旬には1診療所で病原診断例だけでも60例を超える多発を経験した。ちなみに初発例は臨床的にはAHCとしては角膜虹彩炎を主体とした異状例で,その後,2週間足らずに臨床的には80名を超える患者が集中発生した。

ウイルス分離にはHeLa細胞とHEK細胞を併用しているが,アデノウイルスの分離は2病週材料であっても50%近い分離率を示すがEV70は5病日を超えて分離されたことはない。両細胞のウイルス型による分離率を比較してみると,Ad8,Ad19はHEK細胞の方が分離率が高く,Ad8では有意にHEKが秀れていた。5)一方,EV70はHEK細胞よりHeLa細胞を用いた方がより多く分離されるようであった。また,アデノウイルスが分離されても,CF抗体(Ad3型抗原使用)が上昇しない症例が5%ほどにみられたが,EV70感染では,そのNT抗体応答は特異的で精度も高く,血清診断の意義はきわめて高いことが確認できた。5)

血清診断を併用したEV70感染でのEV70分離率は1,2病日で40%程度で,3〜4病日では20%を超えることはなく,5病日を超えた結膜ぬぐい液からは現在まで分離したことがない。5)

このような点をふまえ,AHCが疑われた症例では臨床診断には問題があることが少なくないので,患者のペア血清を採取することに努力してもらい,困難なEV70分離より,血清診断でAHCの確認を行う方が容易と考えられる。

文 献

1) 青木功喜,他;日本の眼科,51,12,1035,1980

2) 青木功喜,他;日眼,83,7,898,1979

3) 青木功喜,他;日眼,83,8,1066,1981

4) Nakazono, N. et al;in press

5) 中園直樹;日本の眼科,投稿中



北大医学部公衆衛生学教室 中園直樹


表1.札幌におけるウイルス性結膜炎の病原検索





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