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1981年7月から始められた岐阜県感染症サーベイランス調査では,48定点医療機関から疾病情報を収集し,そのうち14(検査)定点から検体採取し,病原体検索が行われている。急性出血性結膜炎(AHC)患者の発生情報は表1,2が示すように,県内5分割地域のなかで7月から12月初旬にかけて飛騨と岐阜の2地域を除く3地域内で計52名のAHC患者の発生が報告されている。特に東濃地域では45名の発生がみられ,全体の86.5%を占めている。AHC患者の検体は東濃地域から,その24名について採取された。被験者の性,年令別構成は表3に示した。衛研が受理した検体のうち,7,8月に採取された10名(結膜スワブ8件,咽頭スワブ2件)のうち1名(10才,男子,4病日,咽頭スワブ)からエンテロウイルス70型(EV−70)がHeLa細胞により分離同定された。なお,現在残る14名(結膜スワブ14件,咽頭スワブ6件,糞便4件)については検査中であり,今後血清学的診断も行う予定である。
今年岐阜県下で分離されたこのEV−70はHeLa細胞に材料接取後2代目継代した2日目にCPEを発現した。いずれの分離培養もYLE維持液を用い33℃でローラーチューブの静置培養を行った。過去に岐阜市のAHC発生(1972,'74,'76年)の機会にHeLa細胞による分離を経験('74,'76年)した例のごとく,発現初期のCPEは細胞の半月状ないしは三日月状の特徴のある萎縮したFocusとなって現れた。3代継代株のウイルス力価は,10 7.1 TCID50/mlを示した。ウイルス同定試験は100TCID50/25μlの分離株と腸内ウイルス部原稔博士分与のSchmidt pool serumと自家製高度免疫血清抗J670/71(EV−70標準株)と抗G−2/74(EV−70プライム株)のいずれも25単位希釈血清を用い,トランスファープレート(Cook, 1−220−43)で36℃,5%CO2のもとで90分中和し,マイクロプレート(Falcon, 3042)に用意したHeLa細胞に摂取し33℃で培養観察した。
AHC発生は1976年岐阜市の流行以来ほとんど集団での発生が報告されていなかったが,今回のごとく特定地域内に限局し,比較的集団で発生したことは久しくまれなことでもあり,今後血清疫学的断面調査による分析を試みたい。ちなみに1972年以降,県内のEV−70中和抗体保有調査を続けた結果,中和抗体価1:4水準以上の抗体保有率は県内各地域とも1975年以降1980年現在までほぼ平衡状態が続き,平均約10%程度で維持,経過したことが推定されており,今年秋から冬にかけてのAHC流行とともに抗体保有状況がどのように推移するかを今後も追跡したいと考えている。
岐阜県衛生研究所 川本尋義
Table1.
Table2.
Table3.
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