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Vol.3 (1982/1[023])

<国内情報>
山形市の小学校児童に集団発生したアデノウイルス感染症


本年(1981年)9月初め,山形県感染症サーベイランス事業定点観測医から事務局に,山形市内のN小学校児童を中心に高熱および軽い上気道炎を伴う患児が多発しているという連絡があった。ただちに,山形市教育委員会で調べたところ,小学校児童に9月初めから上記症状を示す者が集団で発生しており,9月16日現在で市内7つの小学校における罹患児童数は560名,うち,欠席者は121名に及んでいることがわかった。山形県感染症サーベイランス事業事務局は,この事態を「熱性疾患の集団発生」としてその原因を追究するために教育委員会および市内医療機関と連絡をとりながら,進行状況の把握,その病原検索および患者の血清診断を実施した。

1.流行状況

最も多くの患者が発生した山形市北西部にあるN小学校児童の罹患欠席状況を図1に示した。患者は8月末頃から出始め,9月に入り急に増加した。流行が察知されたのはこの頃である。この流行は9月下旬終息した。欠席率は33.6%(在籍者数921名)に及んだ。患者発生は性および学年による偏りはなく,患者からその同胞へ伝播した例が認められた。隣接の小学校においては,患者が発生したが,N小学校のように欠席者数が急増するという現象は認められなかった。

臨床症状をみると,発熱(38〜40℃)で急に発症し,3〜7日持続後,平熱にもどるという発熱のみの症状を示した者あるいはそれに加えて上気道炎の症状を伴う者が大部分であった。このように8月に流行していた咽頭結膜熱の症状と異なり,結膜炎の症状を欠く者が多かった。

2.ウイルス分離

6名の患者から発病1〜2日後に採取した咽頭ぬぐい液を培養細胞(HeLa,GMK),ふ化鶏卵羊膜腔と漿尿膜腔内および哺乳マウス腹腔内にそれぞれ接種した。その結果を表1に示す。培養細胞への接種により6例中5例からCPC Agentsが検出された。GMK細胞よりHeLaの方が感受性がよかったことから,以後の検索には,すべてHeLa細胞を用いた。ふ化鶏卵接種方および哺乳マウス接種方によるウイルス分離はいずれも陰性の成績であった。

分離されたCPE Agentsは,予研から分与された抗血清を用いた中和試験により,いずれも,Adenovirus type 3と同定された。

一方,CPE Agents感染HeLa細胞培養液を分別遠心で濃縮し,電子顕微鏡ネガティブ染色法により観察したところ,φ60〜70μmのアデノウイルス様粒子が多数認められた。

3.患者の血清診断

患者13名のペア血清について分離ウイルスに対する中和抗体価(Tube法)を測定した。抗体価が4倍以上の有意上昇を示した者が8名認められた(表2)。

以上の事実から,9月初めから山形市N小学校児童を中心に流行した熱性疾患はアデノウイルス3型感染症と診断される。

また,大部分の患者はN小学校児童およびその同胞で占められていたこと,N小学校における患者発生状況が単一暴露型に近いことなどから,N小学校児童に共通の感染源が考えられたが,それを確認することはできなかった。

(東北月報に投稿中)



山形県衛生研究所 大泉昭子 大山 忍 相川勝悟 片桐 進


図1.患者発生状況(N小学校・在籍者921名)
表1.ウイルス分離成績
表2.血清診断成績





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