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昭和48年,琵琶湖に生息するハス(魚)を米飯とともに発酵させたハスズシによって,E型ボツリヌス中毒が発生した。これを契機に,県内の環境におけるボツリヌス菌の分布調査を行ってきた。
昭和54年までの琵琶湖,河川およびその他についての調査によって,県内環境におけるC,D,EおよびF型のボツリヌス菌の分布が明らかになった。そのうち,琵琶湖からは,上記の4型とも検出されたが,調査地域あるいは調査材料が異なることにより,検出菌型およびその頻度に差があることが認められた。これらの差異が調査時期が異なることによるものなのか,一方,季節別の検出状況はどうであるのかを知るため,昭和55年度から琵琶湖の湖岸4ヶ所を定点として,ボツリヌス菌の検出状況を検討してきたのでその成績を紹介する。
琵琶湖は,琵琶湖大橋を境にして,一般的に北湖および南湖にわけられている。この北湖と南湖の各2ヶ所に定点をおき,昭和55年度は西岸の2ヶ所(A,C),昭和56年度は東岸の2ヶ所(B,D)について調査した(図1)。これらの地点は,これまでに何らかの材料からボツリヌス菌が検出された場所である。調査材料は,土壌,湖水の他,採取可能な限り,淡水魚介類も検体とした。なお,ボツリヌス菌の検索については,培養上清がマウスに致死毒性を示したものについて,A〜F型の抗毒素血清(千葉県血清研究所製)を用いて毒素型を確認する方法によって行った。
これらの調査成績を表1に示した。東岸の冬季の状況は未調査であるが,これまでの成績をまとめてみるとつぎのとおりである。
土壌の成績:AおよびB地点(北湖)では,四季を問わずE型菌が50%以上の頻度で検出されたが,この他にC型菌が春季のみに検出された。CおよびD地点(南湖)でも,四季を問わずE型菌が50%以上検出されたが,C地点ではその検出頻度が春季から冬季に向って徐々に上昇した。また,C型菌は夏季から冬季にかけて検出頻度が高くなった。
湖水の成績:C地点では,秋季にE型菌の他にD型菌,D地区では,春季にE型菌の他にC型菌が検出された。これらの菌型は,同時に採取した土壌からは,検出されなかった。また,A地点の春季および夏季,B地点の夏季では,土壌からはCおよびE型菌が検出されたが,湖水からは検出されなかった。C地点の秋季および冬季,D地点の夏季では,土壌からE型菌の他にC型菌も検出されたが,湖水からはC型菌は検出されなかった。このように,土壌と湖水からの検出菌型は必ずしも一致しているものではなかった。
淡水魚介類の成績:AおよびC地点の材料のみを調査した。A地点での小エビ(0.3gぐらいのもの3匹で1件とした)からの検出菌型は,土壌と同じCおよびE型菌であったが,その検出頻度は土壌と比べると著しく低率であった。C地点でのカワニナからは,春季でC型菌およびE型菌が検出されたが,C型菌は,同時に採取した土壌,湖水からは検出されず,一方夏期でC型菌が検出されたが,土壌,湖水から検出されたE型菌は検出されなかった。このように,土壌と淡水魚介類についても,検出菌型およびその頻度は異なっていた。
以上,昭和55年度からの調査により。琵琶湖からC,DおよびE型の3型のボツリヌス菌が検出されたが,定点別,材料別さらに季節別に検出頻度が異なった。C型菌は,北湖では春季にのみ検出され,南湖では夏季から冬季にかけて検出頻度が著しく増加するという特徴が示された。この特徴は,冬季に向うに従って水鳥(渡り鳥)が飛来して,琵琶湖の鳥類の個体数が増加することに関係しているように思われ,明瞭な証拠は得られていないが,水鳥(鳥類)がC型菌の運搬または増菌の役割を担っているように考えている。一方,E型菌はその検出状況から,琵琶湖に分布するボツリヌス菌の主な菌型と考えられる。しかし,同じ地点でもその検出頻度が季節別に変動することも示された。従って,琵琶湖における成績でも示されたように,ボツリヌス菌は菌型別に異なる生態を営んでいることが推測され,今後とも,その生態について検討を加えていきたいと考えている。
滋賀県立衛生環境センター 林 賢一
図1.調査定点
表1.琵琶湖におけるボツリヌス菌の季節別検出状況
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