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Vol.3 (1982/1[023])

<外国情報>
東アフリカで罹患したクロロキン耐性Plasmodium falciparumによるマラリア


1981年6月27日,17才になる米国青年が交換学生としてケニアに到着した。まず一週間をモンバサとナイロビですごし,以後の6週間をビクトリア湖にちかい西部ケニアのいくつかの小都市ですごした。それ以前の6月14日に,彼は燐酸クロロキン500mg(baseで300mg)による予防内服をはじめており,6月26日までに1週1用量をつづけていた。8月19日には米国に戻った。8月23日に彼は再びクロロキン予防内服をはじめ,9月20日まで一週一用量をつづけた。

最後のクロロキン服用後5日である9月25日,彼は突然として発熱し,頭痛を覚え,そして悪寒を感じた。9月30日診療をうけ,Plasmodium falciparumによる原虫血症(0.9%)が発見され,クロロキンの血中濃度は114ppb(ng/ml)であった。この感染はクロロキン予防内服の無効例という想定のもとに治療が開始され,燐酸クロロキンの標準治療量である2.5g(baseで1.5g)に,sulfamethoxazole 800mgとtrimethoprin 160mgを加えて1日2回,7日間投与した。症状は急速に改善され,以後臨床的に良好な状態を維持している。

編集部註:1978年,ケニアとタンザニアにおける3例のP. falciparum感染例は,クロロキンの標準治療コース(25mg base/kg)が無効であったと報告されている。それ以来,7例の同様の症例が報告されているが,いずれの場合も,米国やヨーロッパからの旅行者が,東アフリカでP. falciparumに感染したものである。上記の標準治療によって7日以内に臨床的には治癒し,血中からマラリア原虫が消失するのである。しかし再感染の機会がないにもかかわらず,いずれの症例においても1〜8週以内に特徴的な原虫血症が再発した。一般にこのような治療無効例はWHOの規準でR−1耐性に該当するものである。この再発はクロロキンの投与量をあげるか,サルファ剤の併用によって治療が成功する。

治療無効例の多くはアフリカにおいてクロロキン予防内服を行ったものである。最近のP. falciparumマラリアの4症例は5〜10mg/kg/weekの予防内服を行っている。

本報告例もあきらかにクロロキン予防内服無効例に該当するもので,クロロキンの血中濃度114ppbはクロロキン感受性のP. falcipaurmを抑制するに足る濃度とみなされている。米国CDCは本例に加え,更に8例の類似例を東アフリカへの旅行者として報告をうけている。この東アフリカ地区として,ケニア,タンザニア,マダガスカル,コモロ諸島がある。

現在でも,東アフリカにおけるマラリア予防のためクロロキンは比較的安全そして有効な薬剤である。この地区におけるクロロキン耐性のP. falciparumの蔓延ははっきりしないし,耐性の度合いもひくいので,CDCは東アフリカの旅行者に対するクロロキン予防内服の現行指導をかえる必要があるか否かについてきめかねている。CDCはin vitroの感受性試験を実施する準備があるし,クロロキンの血中濃度測定に応ずる用意もある。各州保健当局から,アフリカで得たクロロキン耐性P. falciparum感染が疑われる症例の報告を期待している。

(MMWR Vol.30,No.42,Oct.30,1981)






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