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大阪府下の急性胃腸炎の患者(集団発生例,散発例)から検出されるウイルスには,ロタウイルス,アデノウイルスおよび形態が多様な小型ウイルスがある。このうちロタウイルスは,下痢症の重要な病原としてすでに確立されており,また広汎な疫学的研究もなされている。これに比してその他のウイルスについては,病原としての意義だけでなく,その季節消長や分布状況などの疫学的な資料も少なく,なお不明な点が多い。そこで私共は,これらの点を解明していくための手がかりとして,1980年より乳幼児下痢症と流行性嘔吐下痢症の両面から,主として小型ウイルスの電顕による検索を進めている。以下には,ここ2年間(1980,81年)に得られた検査成績を報告する。
表1には,乳幼児下痢症からの検出成績を検出ウイルスごとに月別に示した。検出したウイルス粒子は,形態の特徴から表の通り3種類に分けられる。即ちサイズが25〜33nmで粒子の辺縁が明瞭な球形粒子(6例),カリシウイルス様粒子(3例)および35〜40nmで辺縁が不明瞭ながら多数の突起様構造を有し,空粒子が混在するもの(2例)である。これらの検出率は,80年が145例中6例で4%,また,81年は検査が完了していないが,88例中5例,約6%であった。これらの値は,ロタウイルスが各年それぞれ29%(42例)と48%(42例)であったのに比較して低いようである。また,これらのウイルスは,おおむねロタウイルスが劣勢となる季節に検出された。
つづいて表2は,集団発生からの成績であるが,表に示した通りAN小学校とS乳児院の2集団の患者から,形態的に類似するウイルス粒子を検出した。これら両株間の抗原性は,AN校の患者の対血清を用いた免疫電顕の結果から,同一であることがわかった。同時にAN校の流行性嘔吐症が検出されたウイルスによることも判明した。また,これらの粒子は,形態学的にミニレオウイルスに近いとする示唆1)を得ているが,同様の粒子が表1の81年の散発例からも検出されており,興味深い。なお,この成績のほかに,1977年の2月と11月に2ヶ所の小学校で集団発生した流行性嘔吐下痢症が,カリシウイルス感染症であったこと2)を確認している。
以上,現在までに大阪府下で検出されている小型ウイルスについて触れたが,今後さらに観察を続けデータを蓄積していくことが必要であると考えている。
文献
1) 石田名香雄ほか:ウイルス,Vol.30,167,1981
2) Oishi, I., et al:Biken J., Vol.23,163,1980
大阪府立公衆衛生研究所 大石 功
表1.乳幼児下痢症から検出した小型ウイルス
表2.流行性嘔吐下痢症の集団発生例
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