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昭和56年8月29日から9月1日にかけて,毒素原性大腸菌(ETEC)を原因菌とする韓国帰り集団下痢症が発生した。その概要は,福岡市中央区A社職員27名が,研修(慰安)旅行で韓国釜山に,昭和56年8月28日〜30日の間滞在し,そのうちの16名(発病率59.3%)が8月29日午後から,帰国後の9月1日にかけて,下痢,腹痛を主症状とする集団下痢症を呈したもので,有症者13名について,コレラ菌をはじめ他の病原菌検索を行ったところそのうち10名からETEC(ST単独産生菌)が検出された。他には型別不能のウェルチ菌が3名から検出された以外,既知の病原菌は検出されなかった事から,ETEC(ST+)による集団下痢症と推定した。旅行参加者はほとんどが20代の青年男女で,有症者16名の年齢は全員18〜30代で,性別の内訳は男4,女12名であった。有症者16名の症状を多い順に列記すると,下痢(93.8%),腹痛(87.5%),脱力感(68.8%),頭痛(62.5%),発熱(37.5%),嘔気(12.5%),嘔吐,悪感,裏急後重(各6.3%)で,下痢回数は4回以下(68.8%)と10回以上(31.3%)のものにわかれた。発熱は全て38℃台以下であった。患者の発生状況を日別にみると図の通りで,初発が8月29日13時,終発が9月1日8時で,ほぼ一峰性の発生状況を示した。
釜山滞在中の食事以外に共通食はなく,釜山での食事または水が原因と考えられたが,それらについての検査は全く行えなかった。患者発生状況(図)より単一曝露が疑われる事や,初発患者が釜山滞在中の8月29日13時には発生している事などから,8月28日の昼食または夕食が原因食として最も疑わしいと考えられた。それらの内容は,昼食が,肉の鉄板焼,キムチ,麦ごはん,ミソ汁,チシャ,夕食がジンギスカン風焼肉,キムチ,チシャ,ごはんで食事時の飲み物はいずれもビールまたはジュースであったが,全てX2検定を行っても原因食品を特定できなかった。8月29日以降の食事についても同様であった。
13名中10名の患者より検出されたETECの検出状況を表に示した。
検出されたETECは全てST単独産生菌でその血清型はO34:H10が9名より,型別不能(O27またはO126:H19または20)が2名(1名は両血清型)より検出された。後者が分離された患者の発症日時はそれぞれ8月31日20時,9月1日8時で,全体の発症状況の中では後期であることから,再曝露の可能性も否定できないが,喫食状況等から特徴的傾向はみられず,一応ETEC(ST+;O34:H10)とETEC(ST+;型別不能)両菌による複合感染下痢症(感染源不明)と推定した。
〔血清型別は東京都立衛生研究所で行っていただいた成績である。〕
福岡市衛生試験所 小田 隆弘,磯野 利昭,中川 英子
図.日別患者発生状況
表.ETECの患者別分離状況
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