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1981年5月1日から1982年3月19日にかけて,暗視野検査陰性の陰部潰瘍患者389名がカリフォルニア州オレンジ郡の特定疾患クリニック(OCSDC)で診療された。12月28日の集団発生の際にはHaemophilus ducreyiが原因菌として同定された。以来,126名の患者の病巣培養からH. ducreyiが分離されている。流行は5月の下旬に始まって翌年1月16日の週にピークをなした。梅毒ならびに陰部ヘルペス感染はオレンジ郡では地方病として蔓延しているが,chancroidは一度もなかった。患者の91%はスペイン系男子で,彼等の多くは最近メキシコから移民してきており,1家屋に5〜15人という稠密さで居住していた。少なくともその77%は娼婦と性的交渉をもっていた。chancroid患者が接したと思われる地区の2名の娼婦を検診したところ,病巣は発見できなかったが,双方の子宮頸部からH. ducreyiが分離できた。
確認患者あるいは疑似患者の95%は0.3〜2.5cmの陰部潰瘍あるいはそけい淋巴腺の腫脹をもつ男子であった。病巣はひとつ,あるいは複数であり,潰瘍は浅い場合も深い場合もあり,時には硬結を伴い,しばしばぼろぼろとなった辺縁をもち,底部に膿をもつこともある。32%の症例に一側または両側のそけい淋巴腺がやわらかく腫脹しており,ある患者では進行して波動するほどの腫脹を示した。
梅毒に対する暗視野検査と血清検査,Herpes simplex virus(HSV)の培養,そしてクラミジアに対する血清反応はほとんどすべての症例で陰性であった。しかし,2名の患者は患部からトレポネーマ陽性であり,同時にH. ducreyiも検出された。また,1名においては,HSVとH. ducreyiがともに培養陽性であった。加うるに,HSVは分離できなかったが,病巣は定型的なヘルペスと診断された2名の患者からH. ducreyiが分離された。
この流行から分離された29株のH. ducreyiについて薬剤感受性試験がCDCで実施され,サルファメトキサゾールとテトラサイクリンに耐性,エリスロマイシンに感受性(MIC≦0.004μg/ml),トリメトプリム,サルファメトキサゾール合剤に感受性(MIC≦0.06/1.2μg/ml)と報告された。
H. ducreyiは大変気むずかしいグラム陰性菌で,in vitroで生育させることはかなり困難であり,材料の採取と分離手技に注意しないと分離は成功しない。他の一般細菌とくらべると,高い湿気が必要で,至適温度は33〜35℃とすこし低い。オレンジ郡の公衆衛生研究所では,チョコレート寒天が分離率がよく,また,ある株は10%にFBSを加えたハートインヒュージョンブロースでのみ発育した。
chancroidの治療としてエリスロマイシン500mgの経口投与を1日4回,10日間継続することをCDCはすすめている。もうひとつの処方は800mgのサルファメトキサゾールと160mgトリメトプリムの経口投与を1日2回,10日続けるものである。また,いくつかのあたらしいセハロスポリン系薬剤にはH. ducreyiは極めて高い感受性をもつことが知られている。このものの1回投与が上記の治療法よりも有効であるか否か,今後の研究が必要である。
オレンジ郡における現在の流行は,衛生当局の努力にもかかわらず,まだ制圧されていない。
(MMWR,Vol. 31,14,1982)
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