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Vol.3 (1982/11[033])

<外国情報>
エルシニア症の多数州にまたがる発生(米国)


1982年6月11日から7月29日にかけて,Yersinia enterocolitica腸炎の州間大発生がおこった。各州の衛生当局は病院からの患者報告数の上昇に気づいて疫学調査を実施し,感染源としてテネシー州Memphisにあるミルク工場の滅菌(パスツール法)に問題があるらしいことをつきとめた。

培養陽性患者172症例が確認され,アーカンサス州のLittle Rock市で67,Memphisとその周辺で80,ミシシッピー州のGreenwoodで25であった。うち148例(86%)の患者は腹痛の有無はあっても下痢を伴なう腸炎で,多くの場合発熱をみた。24名は腸管外の感染で,咽頭,血液,尿道,中枢神経系,そして創傷感染であった。患者の41%は5才以下の小児であった。大部分の患者は入院し,うち17名が虫垂切除を受けた。流行株はY.enterocoliticaO群13と18に対する抗血清によって,もっとも著明な凝集を示した。

各都市でそれぞれ個別的にCase-control調査を実施し,原因食としてMemphis市にあるミルク工場の滅菌不良ミルクであることを推定したが,Little RockでP=0.03,MemphisでP=0.01,GreenwoodでP=0.004,であった。ひっくるめて症例の71%が,そして対照の39%が症状の発生する2週前に当該ミルクを飲んでいたことが想起された。

集団発生の大きさを知るために,Greenwood市で無作為に100の家庭を選んで電話による調査を実施した。病気の有無と過去2ヶ月における牛乳摂取の実情を問い合わせたところ,これら家庭のメンバー260名から11名のエルシニア症様の患者が確認された。これらすべての患者は問題の牛乳をとっている家のものであり,その牛乳を過去2ヶ月以内に摂取していることを想い出している。その他の調査成績からGreenwoodでは857の症例があったことが推定され,しかも,問題の牛乳の3.9%がこの町で売られたにすぎないので,今回の患者総数は報告数の172よりもっと多いことが推定された。

この集発は自然に終息した。疑しい牛乳の製造ロットは手に入らず,培養試験はできなかった。またその後のロットからは菌は分離できなかった。ただ,その工場から期限ぎれの牛乳をある豚舎が購入して飼料として用いていたが,その豚舎にあった牛乳桶から流行株と同一の血清型の菌がFDAによって検出された。工場査察によって滅菌技術に問題となるような点は指摘されず,また,汚染の確たる源泉も発見できなかった。

 [ 編集部註] 牛乳中のY. enterocoliticaはパスツール法の滅菌によって生残することは一般には考えられないが,汚染菌量が非常に多い場合には生きのこるものがあり,それは冷蔵庫の温度で増殖する可能性がある。調査記録のゆきとどいたY. enterocoliticaによる食品由来の集団発生は,米国では過去に2度あったが,今回のものは最大の規模である。

(CDC,MMWR,Vol. 31,31,1982)






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