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横浜市では感染症サーベイランス事業の一部としてウイルス性呼吸器疾患を対象とした調査を行っているが,その主要な目的の1つとしてインフルエンザの常時監視を組み込み,年間を通じて全採取検体からMDCK細胞を用いてウイルス分離を行ってきている。1978年11月から1982年11月までの4年間に2890例について検査し,347株のインフルエンザウイルスを分離した(表1)。これらの大部分は当然1月から3月にかけての流行期に分離されたが,流行としての終息後も,年により型や時期は異なるが,毎年4月ないし6月までウイルスの残存が認められ,今年はAH3型が5月末まで検出された。また,秋期にも分離され得ることがあり,1980年の10月にはB型が1株分離された。しかし,その冬のB型流行はむしろ小さなもので,流行の予徴とはなっていなかった。今年1982年9月20日にも2例からAH3型が分離された。分離例は同一定点からのもので,いずれも7歳の小学生で,39℃以上の発熱があった。定点医師によれば,付近の学校における流行は認められなかった。
横浜市の人口は280万人,内科・小児科医院は1600あり,その中で5医院を定点とし,週1回10〜20検体を検査しているのみのこの調査でも,わずかではあるが,流行閑期にウイルスを捕えうることは,その背景には相当数の患者が存在していると考えられ,また一方,こうした調査のためには,定点医師の観察眼が重要であることを示している。
分離株についてはMDCK細胞で増殖させたウイルスとそのマウス免疫血清とのHI試験により比較しているが,最近のA(H3N2)ウイルスは1978年以後,主流行株にはほとんど変化がみられず,A/横浜/85/80のように若干異なった株が見出されはしたが,80,81年にそれぞれ1株が検出されたのみであった。今年9月に分離されたA/横浜/22/82も最近の主流行株と同様な性状を示していた(表2)。この株は国立予防衛生研究所でも調べていただいたが,やはり春までの流行株,A/Kyoto/C−1/81と同様な株として認められた(表3)。
12月に入り広島県等でAH3型の分離情報が聞かれるようになった。横浜市では9月の分離以後は全く分離されなかったが,12月13日に至り,5歳の子供からAH3型が検出された。本格的な冬期到来をひかえ,ようやくインフルエンザの動きが認められてきており,今度の推移に注目していきたい。
横浜市衛生研究所 遠藤 貞郎,小島 基義,野村 泰弘,母里 啓子
表1.定点医療機関からのウイルス分離
表2.AH3型ウイルスの交又HI試験
表3.Hemagglutination inhibition reactions of influenza H3N2 viruses.
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