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いずれも2才以下の小児で,説明不能な細胞免疫不全と日和見感染をもつ4症例の報告をCDCはうけた。
症例1:妊娠合併症を伴ったあと,36〜38週で生まれ黒人・スペイン系の男児であるが,3ヶ月までは正常に発育したものの,この時点で口腔カンジダ症が認められ,4ヶ月で肝脾腫が観察された。7ヶ月ではぶどう球菌性膿痂疹が発生した。遅れがちであった発育は9ヶ月になると全く停止した。この時,IgG,IgAの血清レベルは正常であったが,IgMは正常値より高く,T細胞をしらべても特に異常はなかったが,カンジダ抗原とアロ抗原に対する試験管内の反応性が低下していた。
17ヶ月になると,この小児は肺に進行性の浸潤を示し,口腔カンジダ症はつづいているので入院した。喀痰と骨髄標本からMycobacterium aviumintracellulareが分離培養された。20ヶ月になってリンパ球減少,とくにT細胞の減少とその機能不全が著明となり,抗酸菌症に対して治療がなされている。母親は薬物の静注濫用の経歴があり,この子の出産時は外見上健康であったが,その後1年近くなってから発熱,呼吸困難,口腔カンジダ症を発生し,入院後Pneumocystic carini肺炎で死亡している。リンパ球減少症が証明されている。現在のところ免疫不全をきたした基礎疾患は判明していない。
症例2:正常出産したものの,その直後呼吸不全を合併したハイチ系の男児である。2週後下痢を発症して持続した。発育は遅れた。5ヶ月時,発熱と下痢を主訴として入院した。診察の結果,肝脾腫,リンパ腺腫,中耳炎が発見された。抗生物質投与の間に,肺に浸潤をみるに至った。肺のバイオプシイによって,Pneumocystic carini,Cryptococcus neoformans,cytomegalovirusが分離された。IgG,IgA,IgMの血清レベルの上昇,T細胞の率は減少していたが,マイトージエンに対する反応性は正常であった。7ヶ月半で呼吸不全により死亡,剖検により,胸腺,脾,リンパ節からリンパ球が消失していた。両親の健康状態は不明。
症例3:正常出産したハイチ系男児である。生後5ヶ月までは健康であったが,発熱と呼吸困難で入院した。肝脾腫と両側肺の浸潤が発見され,抗生物質投与によっても状態は悪化し,バイオプシイでPneumocystis carini肺炎が証明された。IgG,IgA,IgMの血清レベルの上昇とTリンパ球の率減少と機能不全があり,患者は死亡した。剖検により胸腺の発育不全が認められた。両親の健康については不明。
症例4:正常出産した白人女児。生後2ヶ月までは健康であったが,この時口腔,膣のカンジダ症が認められた。抗菌剤投与によって反応はあったが,5ヶ月時には再燃し,肝脾腫が発生した。2ヶ月時に正常であったIgG,IgA,IgMレベルが上昇し,T細胞の率とその機能が減弱した。6ヶ月時に発熱と咳を主訴として入院し,バイオプシイによってPneumocystic carini肺炎を証明した。抗生物質治療の効なく患者は死亡した。サンフランシスコに住む28才の母親は娼婦で,薬物静注の濫用歴があり,口腔カンジダ症とリンパ球減少症がある。父親を異にするもう2人の娘をもっているが,彼女たちも説明困難な細胞性免疫不全症をもっており,そのうち1人はすでに死亡しているが,これら3人の子供達は一緒に生活したことはない。
以上の免疫不全の性格は不明であるが,先天性のものではなく,獲得性のものであり,しかも伝染性の可能性が疫学的状況から示唆されている。
(CDC,MMWR,31,49,665,1982)
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