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(東京都微生物検査情報第3巻第12号より転載)
海外から持ち込まれる疾病として注目すべきものの1つにマラリアがある。本疾患は現在日本に常在しないと考えられるが,海外との交流が頻繁化した昨今の社会情勢を反映して,輸入例が増加傾向にあることが専門家から指摘されていたところである。
公衆衛生部防疫結核課では,数年来都内におけるマラリア発生状況を極力正確に把握すべく努力が重ねられていたが,その資料を利用させていただき,以下に過去3年間の実態を紹介する。
届出患者数は昭和55年18例(1例は再発時再度届出),56年13例,57年16例の計47例であった。うち20例が外国人である。日本人27例すべてが海外に感染の機会を持っており,国内での罹患例はない。死亡例は1例であった。これら47例中,性別は男37,女10,年令階級別では10才未満1,10才代2,20才代16,30才代13,40才代12,50才以上3となっている。初感染,再発の別をみると,前者が33,後者が12,残りの2例は不明である。届出医療機関をみると,都立病院11例,大学病院18例,その他が18例であった。すべての例において血液塗抹標本の検査で原虫が確認されている。
再届出の1例を除いて病型別に観察すると,三日熱が最も多く24例,次いで熱帯熱で13,四日熱2例,混合型3例,病型についての記載のあいまいな例または記載のない例が4例である。
感染地別に病型の分布をまとめて表に示した。アフリカでの罹患例では熱帯熱が最も多いが,四日熱も見られる。インド亜大陸および東南アジアからの輸入例では三日熱が大半を占めるが,東南アジアでの罹患例には熱帯熱も一部認められている。
マラリアの発生には媒介蚊が関与するのでこれらの輸入事例から国内2次発生がすぐ起こるとは考えられないが,重篤な疾患であるので,注意深い監視体制が必要であろう。
なお,マラリア常在地では,最近本疾患特効薬クロロキンに対する耐性原虫が増加傾向にあり問題視されてきている。
表.マラリア症例の感染地別病型分布
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