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Vol.4 (1983/5[039])

<国内情報>
毒素原性大腸菌O34:H10による食中毒の発生について


 毒素原性大腸菌(ETEC)O34:H10は,これまで海外旅行者から散発的または集団的(本月報第25号)に検出されてきたが,昭和57年8月,愛知県下で本菌による食中毒が発生したのでその概要を紹介する。

 8月9日19時から半田市内の旅館において歓送迎会を行った某衛生検査所の職員58名のうち27名が翌10日10時から11日22時にかけて下痢,腹痛等の症状で発病した。

 潜伏時間は15〜51時間で,多くは30〜38時間であった。主要症状は下痢(88.9%),倦怠感(77.8%),腹痛(74.1%)で,その他脱力感,頭痛,嘔気,発熱等がみられた。下痢は水様便で5回程度のものが多く,発熱は36.8〜37.7度で多くは37度であった。

 宴会料理はかずの子のからし和え,ひらめの刺身,伊勢えびの煮物,あげ出し豆腐,ゆでがに等であったが,疫学調査により原因食品を特定することはできなかった。

 患者9名の大便について菌検索を行った結果,表に示すとおり7名からETEC(ST単独産生菌)が検出され,血清型はO34:H10であった。ETEC以外には,患者8名からウエルシュ菌が検出されたが,ホッブス型が一致せず,また,いずれもエンテロトキシン産生能を示さなかった。以上のことから,本食中毒の起因菌はETECO34:H10と推定された。なお,摂取食品の残品はなく,また検査材料として採取された調理器具のふきとりおよび調理者大便から既知病原菌(ETECは検査せず)は検出されなかった。

 海外旅行者にみられたETECO34:H10が,今回,愛知県下で発生した食中毒の原因菌として検出されたことから,今後,食中毒の菌検索にあたって本菌に留意することも必要と考えられる。



愛知県衛生研究所 斎藤 真,船橋 満,中村 章


表.患者大便からの毒素原性大腸菌の検出状況





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