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わが国における腸チフス・パラチフスの発生は各都道府県の衛生部より厚生省保健情報課宛に送付される患者発生報告カード,患者管理カードおよびファージ型別のため予研宛に送付される菌株添付資料の三者にもとづいて集計,解析されており,その数字はわが国における該疾患の発生状況をかなり正確に示しているものと思われる。
1982年1月〜12月の発生状況について本年3月末までに送付された上記各資料からの集計結果を以下に概説する。
腸チフスは患者・保菌者あわせて304例,パラチフスA55例,パラチフスB296例が報告されたが,それらの月別発生数を患者・保菌者別に表示した(表1)。かつては冬期に多いとされていたこれら疾患の発生はむしろ夏期に多発の傾向がみられる。この傾向はとくにパラチフスBにおいて顕著であった。
1982年中に小規模な家庭内集団発生事例にはしばしば遭遇したが,施設内あるいは地域流行事例は少数にとどまった。すなわち,8月に静岡市内で発生した腸チフス型別不能(UVS4型)による事例(7名),11月に八幡浜市で発生したD2型チフス菌による事例(25名),8月〜9月に流行したパラチフスA1型による事例(8名)などである。八幡浜市の事例は3年前の同時期に同地域で発生した同じファージ型D2による流行の再燃とみられ,関係者の努力で流行の源と考えられる永続保菌者の発見に成功し,流行は短時日で終結した。パラチフスAの事例は韓国旅行団の帰国後に発生したもので,患者は5都県にまたがり,流行の全貌は必ずしも明確にされ得なかった。
1982年に発生報告のあった腸チフス304例中269事例からの分離株がファージ型別のため予研に送付された。これは発生例の89%に相当する。本年中に分離されたファージ型は24種におよんだが,1956年にわが国にファージ型が導入されて以来最も種類の多い年となった。これは近年の輸入例の増加にともなって,わが国で分離されるファージ型が多様化してきたことの反映でもある。ちなみに本年分離されたC5,E2,G1,O,46,50の各型はいずれも海外輸入例からのみ検出された(表2)。分離頻度の高かったファージ型はD2(22%),E1(13%),DVS(9.9%),M1(9.5%),型別不能(8.9%)などで,例年と大差はなかった。
パラチフスAとして報告のあった55例中,ファージ型に供されたのは51例,供試率は93%であった。パラチフスAの国内発生に対する輸入例の割合は年々増え続けてはいたが,本年ついに51%に達した。したがって,わが国で分離されるパラチフスA菌のファージ型は,海外での流行を敏感に反映しているものと思われる。本年分離されたファージ型2,5,6などはすべて輸入事例でしめられた(表3)。
パラチフスBは発生数296例の96%に相当する283株がファージ型別に供された。そのファージ型分布とD−酒石酸利用性との関係を表4に示した。ファージ型3aはすべてD−酒石酸利用性陰性であること,D−酒石酸陽性株のファージ型は1,3b,型別不能に集中していることなど昨年の傾向と同様であった。
チフス菌,パラチフス菌の分離株すべてについて薬剤感受性試験を行ったが,わが国でははじめてCP耐性パラチフスA菌の出現をみた。これは回復期患者のふん便から分離された1例で,その薬剤耐性パターンはCP・ABPCであった。腸チフス同様,パラチフスAについてもCP耐性菌の出現にはひき続き注意を払う必要があろう。
予研 中村 明子
表1.1982年に発生した腸チフス・パラチフスの月別・患者・保菌者別発生例数(診定日による分布)
表2.1982年に分離されたチフス菌のファージ型分布と輸入例の罹患推定国別分布
表3.1982年に分離されたパラチフスA菌のファージ型分布と輸入例の罹患国別分布
表4.1982年に分離されたパラチフスB菌のファージ型分布とD−酒石酸利用性
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