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感染症サーベイランス情報の無菌性髄膜炎患者発生報告数は1983年5月下旬(第21週)から急増し,7月中旬(第28週)には全国平均で一定点あたり1.18人に達した(図1)。一方,現在集まりつつあるウイルス分離報告では,髄膜炎患者からのウイルス分離として9月末までに82例が報告され,このうち46例(56%)がエコー30型(E30)である(図1)。したがって本年の無菌性髄膜炎起因ウイルスはエコー30型が主流とみられる。
エコー30型はわが国では過去に分離報告がなかったが,1978年以降毎年少数が愛知,愛媛,広島の各県で検出されはじめさらに,1982年秋鳥取県等で無菌性髄膜炎流行から分離されたことから夏の流行が警告されていた。今期分離されたE30では,49例(64%)が無菌性髄膜炎患者由来であり(表1),このうち22例(45%)は髄液から分離された(表2)。両頻度とも他のウイルスにくらべて著しく高い。
今年の無菌性髄膜炎患者の年齢分布をみると,前年にくらべて1〜4歳が減少し,代わりに10歳以上が増加して19%を占めている(前年の約2倍)(表3)。ウイルス分離が報告された年齢も1〜14歳間に広く分布し(表4),このウイルスの流行が年長群に及んでいることを示している。秋田県衛生科学研究所および鳥取県衛生研究所の調査によるとこのウイルスに対する一般の抗体保有率は極めて低く,とくに20歳以下では0〜3%を示し,年長者を包含した流行が進行する免疫的地盤を説明している。
患者発生報告から各地の流行状況をみると,本夏の無菌性髄膜炎発生数は一定点あたり0から6.0人で県によって差が大きい。広島,長崎,鳥取,山口,三重,愛知,岩手,青森,熊本,兵庫などに発生がめだち,その多くで50名以上数百名に及ぶ大規模な発生が報告されているが,週間患者発生数が1.0を越えたのは18の県市にすぎず,又髄膜炎患者からのE30分離報告もこれらの地域に片寄っており(表5),各地では尚多くが感受性なので,E30が引き続き次年にも流行する可能性があろう。また,患者の急激な増加に対してウイルス報告数が多くないので,E30以外のウイルスが混合流行している可能性がある。
病原体情報の集計によってわが国の無菌性髄膜炎起因ウイルスは毎年異ったエンテロウイルスが入れ替って流行することが明らかにされた。1981年はコクサッキーB2型,エコー11型およびエコー18型の3ウイルスが,1982年はコクサッキーB3型とコクサッキーA9型が主流であった(図1)。今夏流行したE30は世界的にエンテロウイルスの中で中枢神経系(CNS)関連ウイルスとして最もめだつウイルスである。WHOウイルス年報によれば,1980年までの10年間にE30は世界中で4380例(CNS関連ピコルナウイルスの14%)が報告され,検出数に対するCNS関連例の割合は73%である。1979年に東ドイツおよびオーストラリアで,1980年には英国およびフランスで流行した。高年齢の感染でCNS合併症がめだち,15〜24歳群では90%に達している。
図1.無菌性髄膜炎の患者発生状況とウイルス検出状況
表1.エコー30の分離されたものの臨床症状
表2.エコー30の分離された髄膜炎患者由来の検体の種類(1982.1〜1983.9)
表3.年齢別患者発生数及び割合(%)(年齢不詳を除く)
表4.エコー30の分離された髄膜炎患者の年齢分布(1982.1〜1983.9)
表5.月別・住所地別エコー30検出状況(由来髄膜炎患者)
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