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インフルエンザ様疾患発生状況:厚生省保健情報課は例年流行期に,各都道府県でまとめられる報告にもとづいて,「インフルエンザ様疾患発生報告」を週報として出している。集計される情報はインフルエンザ様疾患流行増幅の場であるとみられる保育所,幼稚園,小・中学校,その他の施設(高校,各種学校)におけるインフルエンザ様疾患の発生状況,すなわち,患者数,在籍者数,休校等の処置をとった施設数とその処置の種類,分離状況等で主に集団発生状況をとらえている。この報告による1976年末より1983年春までの過去7年の患者発生数(各週)を図1に示した。これによると最近最も大きい発生があったのは1976/77および1977/78年で,その後は小または中規模の流行に終っている。
ウイルス分離状況:今季ウイルス分離は横浜市衛研において9月19日,Aソ連(H1N1)型が報告され,ついで東京都衛研でも同型が分離された。他の型は分離されていない。図2に図1と同様,過去7年のウイルス分離状況を示した。77/78年はAソ連型とA香港型が時期的にずれて流行した年で,大流行となった。79/80および80/81年は3型の混合流行,81/82年はB型の中程度の流行に後半A香港型の流行が重なった。82/83年はA香港型単独の流行であったために流行の規模は小さかった。今季流行が予想されるAソ連型は1977年末以降1981年春まで多数分離されたが,81/82年は2株,82/83年には22株しか報告されていない。
分離株の抗原性:横浜市および東京都で分離された株(表1No.7およびNo.12の株)は,ともに今季のワクチンに含まれているA/熊本/37/79とHI試験では同型である。しかし横浜株はNI試験で差がみられている。本年夏以降の分離株は東南アジアを中心にAソ連型が主流で,この中にはタイの分離株(No.8,9)のように抗原変異のみられるものがあり,とくにニュージーランドで分離された株ではかなり大きい抗原変異がみられる(No.10)。わが国でもこの型のウイルスはすでに前季1982年12月鹿児島衛研で1株分離されている(No.11)。
抗体保有状況:1983年秋(ワクチン接種前)の抗体調査が厚生省流行予測事業で実施されている。現在までに報告された群馬県の成績でみると,Aソ連株に対しても抗体保有率が高く,抗原的に同型のウイルスの流行ならば,小規模で阻止できるレベルにあるといえる。しかし,上述のようにすでに前季わが国でも検出されている抗原構造に変異の大きいウイルスが流行した場合,低年齢群および青年層を中心に流行の可能性が考えられ,これらウイルスの動向が注目されている。
図1.インフルエンザ様疾患患者発生数(インフルエンザ様疾患集団発生報告週報 厚生省保健情報課)
図2.インフルエンザウイルス分離数(1977年〜1983年)
表1.AH1型ウイルスの交叉HI試験とNI試験
図3.1983年流行予測事業速報 インフルエンザ抗体保有状況
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