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Vol.5 (1984/3[049])

<外国情報>
東南アジア,西南太平洋地域への旅行者に対するマラリア予防


 ここでいう東南アジア,西南太平洋地域とは,インドとバングラディッシュの東に横たわるアジア,オーストラリア地域を指すものである。

 Anopheles stephensiによって媒介される都市マラリアをもつインド半島の問題については別途扱うことにする。

 この東南,西南アジア地域における感染の危険性は,ひとつの国においても地区によっても異なるが,一年間の暴露後1000人に1人以下の感染確率をもつ地区と,より以上の頻度をもつ危険地区にわけられる。とくにメラネシアの一部とニューギニアの沿岸地区は熱帯アフリカに匹敵するハイリスク地区である。また,たとえば東マレーシアであるが,Sarawak地区では感染率は低いが,Sahah地区ではたしかに危険度が高いというように,国内部位による差異の大きいところもある。

 旅行者に危険のないところとして,ラングーン等ビルマの都市,中国における一般の観光ルート,インドネシアのジャカルタ,スラバヤ,フィリピンのマニラ,セブ,レイテ等の都市区,マレーシアの都市区,半島の沿岸区,そしてSarawak,タイではバンコク,パタヤ,それに香港,シンガポール,マカオ,台湾,日本,韓国,オーストラリアである。

薬剤耐性に関しては,Plasmodium falciparumのクロロキン耐性株に関するもっとも早期の報告のひとつが,1957年にタイとベトナムの最前線からであったことが注目される。耐性株は現在東南アジアのすべてのマラリア地域に広がっている。また,Fansidar (pyrimethamine/sulfadoxine)とクロロキンの双方に対する耐性株が,タイやパプアニューギニアで発生している。FansidarとMaloprim (pyrimethamine/dipsone)との併用は東南−西南アジアいたるところで主流である。P. vivaxに対してはあまり効果がない。

 東南アジアへの旅行者にマラリア予防の忠告を与えるにあたって一般に3つの場合がある。

 第1のものは,クロロキンとFansidarに対して多剤耐性のP. falciparumの存在する地域への旅行者に対するものであって,これは実際予防剤がない。タイ,とくにカンボジアとの国境近いところとニューギニアの沿岸のある部分,そしてベトナムとカンボジアにもそうした危険があり,クロロキンとMaloprimの併用がさしあたって最良の対策であるが,完全な効果は期待できない。結局は蚊に喰われることを避ける以外にはなく,身体の異常を感じたらマラリアを疑うことである。

第2の場合は,すでに述べたような一般には危険のない地区への訪問の際,たまたま気が変わって汚染地区への1晩−2晩程度の旅行である。こうした場合の予防内服としては,P. falciparumのある株と大部分のP. vivaxに効果があり,しかも副作用のすくないproguanilを1日100mg投与するのがすすめられる。しかし,旅行日程が変わったそうした地区での滞在が長びく場合は,別の予防内服を考慮すべきである。

 第3の場合は,多剤耐性のP. falciparumに気をとられて,P. vivaxを忘れてFansidarとMaloprimだけをすすめる場合である。P. vivaxは東南アジアに一番多いマラリアであり,クロロキン(一般にはproguanilを用いる)が一番有効である。

 結論的にいえば,東南アジアのマラリア地域へ旅行する際には,予防内服として1週毎にクロロキン300mgにFansidarあるいはMaloprimのタブレット1錠を用いるのがすすめられる。

(CDR,84/1,1984)






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