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Vol.5 (1984/6[052])

<外国情報>
老人病棟のアストロウイルス胃腸炎


1984年2月19日,10日以上前に入院した2患者が下痢と嘔吐をおこした。1人は病棟の床に失禁した。4日後他の2人,翌日さらに3人が発症した。11日にわたって他の10人が発症,急性の腹痛がめだった。調査した7人の便のうち,5例に電顕でアストロウイルスがみとめられた。結局,病棟の31人中17名が発症した。多くは24時間以内に回復したが,6例は4〜10日症状が続いた。発熱または重症例はなかったが,急性期には1時間ごとの排便が珍らしくなかった。看護婦によれば便は特徴的に白土色だった。

 発生の疫学像は図の如くである。もし最初の2患者が次の8名の感染源だとしたら,潜伏期は4〜6日ということになる。再発症状が2例にみられたが,それ以上の調査はされていない。ウイルスがみとめられた便材料5例中4例は発症後24時間以内にえられたもの,他の1検体は10日症状が続いた患者から5日目に採られた材料である。陰性の2検体中1は24時間(患者は回復),他の1は発症後4日目に採られた。

 流行像はヒト−ヒト伝播を示唆した。看護婦は手洗を励行させ,便器を清潔にし,ベッドや食器類の取り扱いに気をつけるようにした。その後発生は終止した。感染源は不明である。食物は全病院用が1調理場で作られ,病棟内に30分以上とどめおかれることはない。少数の散発下痢症例のあった他の病棟の看護婦が患者発生開始の2〜3日前に一夜だけこの病棟にきた。他の病棟の患者からウイルスは検出されなかった。1医師が2,3日前少し具合が悪かった。最近,胃腸炎で入院した患者はいない。呼吸器感染(エコー11型で時にみられる)は可能性があるにしても,流行パターンはこれを示唆しない。最初の2患者のうち1人は端の病棟にいたが,開放病棟で失禁した。もう1人は6床の区画にいたが,この区画の感染者は2人のみで,1人は2月24日に発症し,もう1人は3月5日まで発症しなかった。

 アストロウイルス胃腸炎は散発,流行とも子供に一般的だが,成人の流行が1例報告されている(Konno T. et al. Astrovirus-associated epidemic gastroenteritis in Japan J. Med. Virol. 1982 : 9 : 11〜17)。

(CDR,84/16,1984)









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