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Vol.5 (1984/7[053])

<外国情報>
ワクチンで防御可能な疾病の撲滅の可能性−ヨーロッパ地域


ジフテリア,新生児破傷風,ポリオおよび先天性風疹のヨーロッパにおける撲滅の可能性に関する非公式特別会議が1983年6月27,28日にコペンハーゲンで開催された。

 ジフテリア:かつては年間数千例が発生,ヨーロッパの主な流行疾病だったが,広範な免疫により発生は劇的に低下し,多くの国ではもはや国内発生はみられない。呼吸器ジフテリアは免疫行政の維持・強化によって1990年までにヨーロッパで排除されるであろうし,またすべきである。

 新生児破傷風:現在多くの地域でまれであり,免疫行政の強化で残りの少数の地域でも1990年までに排除されるだろう。

 ポリオ:かつては年間数千麻痺例を生ずる重症で周期的流行をおこしたが,この地域のほとんどの国でめざましいコントロールが達成されている。全体として1958〜1960年に比べ,1976〜1980年では年間発生数で97%低下しており,数ヶ国では国内例はすでに排除している。生および不活性化ワクチンが有効に使われている。にもかかわらず,一方では数百例がこの地域の限られた国から毎年報告される。野外ポリオウイルスの国内伝播は1990年までにヨーロッパ地域の国々から排除できるだろう。伝播が続いている少数の地域ではそれを阻止するよう行政を強化すべきである。その他の地域では,すでに獲得した進歩をそこなうことのないよう現在の免疫レベルの維持を常に確認すべきである。

先天性風疹:風疹は本来はmildな疾病だが,妊娠早期の感染が胎児に死または重症異常を生ずる。近年,自然感染率の低下につれて妊婦の感染率が高くなってきた。妊娠時風疹感染(流産を含む)のサ−ベイランスの強化がまず重要である。

ワクチンは1969年製造許可され,90%以上の抗体獲得率が得られている。ヨーロッパでは3型(HPV−77由来,CendehillおよびRA27/3)ある。開始後16年間の観察でワクチン免疫の長期持続が示されているが,免疫が一生続くかどうか今後の研究が必要である。ワクチンは妊娠年齢の数年前に与えられているから免疫持続は重要な論点である。ワクチンは安全で,30〜40%の感受性成人女性は一時的に関節痛を生ずるが,関節炎はまれである。催奇型性については米国の情報ではこの可能性は低く,妊娠中のワクチン接種は自動的に中絶を指示するものではない。しかし,全く危険性がないというにはデータが不十分なので,妊娠がわかっている者への接種はさけるべきである。接種前の血清検査は必ずしも必要ないが,cost-effectiveの観点,および感受性者の追跡,免疫確認のために有用である。暴露後の免疫グロブリン投与は臨床症状を軽減するが,感染阻止はむずかしい。使用は感受性妊婦が確かに暴露し,中絶しない場合に限るべきである。

 ワクチン投与の方法には2つの考え方がある。

a) 風疹流行を阻止せず女性を感染から守る:女子学生と妊婦年齢を免疫する。

 b) ウイルス伝播を低下させ妊婦の暴露を防ぐ:男女の幼児免疫

どちらの方法をとるかはワクチンの受けやすさ,とくに混合ワクチン(麻疹−風疹,麻疹−ムンプス−風疹)への組み込みの可否による。いずれにしても妊婦に接触する者とくに保健関係者は男女を問わず免疫すべきである。

 一般に女子学生を免役する方法は完全な効果を認めるのに20年は要する。効果は免疫率に対し直線的で,もし60%の妊婦年齢が免役されれば60%患者発生が阻止されることになる。これに対し,入学前の男女子供の免疫はより早い効果をもたらし,開始後10年で全体の効果が期待できよう。しかし,投与と効果は直接的ではない。とくに投与が70%以下だと中間の期間では全然対策をこうじないより更に悪い結果となろう。だから学齢前接種は高接種率が確保できる保証が必要である。さらに免疫の持続が問題で,女子学生免疫方式だと,免疫低下は単純に直線的に効果を低下させるが,学齢前接種方式では感染を成人年齢までひきのばし,重大なはねかえりの結果を生ずる可能性がある。

 基本的な問題はヨーロッパ全体で可能な政策の適性が模索されるべきで,たとえある地域で撲滅しても他からの再導入を防ぐために高接種率を保たねばならない。このためには多くの国で強制接種の導入なしにこれができるとは思えない。

 どのような方策がとられようと胎児風疹感染は本世紀末までに排除できよう。この目的の遂行には対象年齢集団の90%以上の免疫が必要だろう。

 これら問題を討議するための地域会議が1984年3月13日,14日に開催された。

(WHO,WER,59,19,1984)






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