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Vol.5 (1984/7[053])

<外国情報>
腎症候性出血熱(HFRS)−フランス


 フランスにおいては,1982年11月と1983年6月にHFRSの最初の2例(自発例)が認められた。以来,フランスはCDCとの共同で6例を追加確認し,他の者によりさらに5例が確認され,フランスにおいてハンタンウイルス関連の疾病が存在することが強固となった。

 8例全例において,臨床症状は発熱,腎不全(6例において血清クレアチニン値が300μM/lを越えた),蛋白尿(1.5gm/dl以上),頭痛,腰痛,腹痛であった。5例は血清クレアチニン値が500μM/lを越える重症の腎不全で集中治療施設に入院した。2例は軽症の出血症状だった。全例が2〜3週間で後遺症なく回復した。CDCにおいて,免疫蛍光抗体法ならびに数例についてはハンタンウイルス76−118株に対するプラック減少法による中和試験を行って血清学的に確定診断がなされた。

 患者の年齢は14〜38歳で7例が男だった。全例が発症前4週間以内に野ねずみに接触した可能性を持っていた。3例については,接触の機会が唯一だったので正確な潜伏期間がわかった。野ねずみにかまれた後HFRSになった1例は14日間で,同じ場所で野ねずみとの間接的接触の機会が1回だけあり,パリに住んでいる2例は17日および20日間だった。

 8例は4つの異なった地域に分布し,2例はパリの120km北東,4例はパリの70km北,1例はパリの500km南,1例はパリの30km北西だった。

 フランスにおけるHFRSの広がりをさらに知るための疫学調査が進行中である。

MMWR編者註:HFRSは発熱,悪感,脱力感,めまいを伴って突然に始まる。頭痛,筋肉痛,腰痛が通常顕著になる。この疾病の重症例は初めにアジアで発生し,点状出血や出血を伴う血小板減少症を起こすが,軽症例では出血はほどんど少ないかまったく伴わない。どちらも急性の腎疾患を起こす。HFRSは第二次世界大戦以前はアジアにおいては存在することが知られていたが,朝鮮戦争中に英国軍隊がこの疾病にかかったときに,英国の文献に初めて報告された。

 改良されたハンタンウイルスの組織培養での増殖法により,北アメリカとアジアという世界の各地で野ねずみにハンタンウイルスに近縁なウイルスの分離同定がなされている。これに平行して,ヒトの感染が発見され,フランスではこの報告に記載されたように,かなりの数のHFRS症例はこのウイルスの感染に関連している。

 これらの報告はフランスにおいてHFRSが重症の入院を要する疾病の重要な原因であることを示唆している。フランスにおいて急性疾患に関連した地域で,ヨーロッパヤチねずみが捕獲されることは,この地域のHFRSはすでに知られているスカンジナビアや東欧の疾病の延長であり,おそらく西ソビエトや中国で報告されている軽症型であることが示唆される。フランス国内における地理的分散は周辺の国々も注意すべき状況にあり,それらの国民の中にこの疾病を探すべきであることを示している。米国のように野ねずみからウイルスが分離,同定された国々はどの国もヒトの疾病の可能性があり,そのような症例を探すことが正当とされる。

(CDC,MMWR,33,17,1984)






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