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Vol.5 (1984/7[053])

<外国情報>
ヒトのMonkeypox(サル痘)の現状


ヒトのサル痘はアフリカ西部および中央の熱帯降雨林で散発する動物伝染病である。ウイルスはOrthopoxvirus群に属し,人痘とは異なる種であるが,ヒトに全身的発疹を生じ,特に子供で致死率が高い。実験室内でウイルスは広い宿主域を示す。自然界の感染動物としてはヒト以外の霊長類があるが,ウイルス保有動物は不明である。ヒトは偶発的宿主で,ヒト−ヒト伝播はまれである。人痘と臨床症状が似ているので,Global Commission for the Certification of Smallpox Eradicationは1979年12月の最終報告において,西・中央アフリカのヒトのサル痘サーベイランスを継続し,この疾病の臨床,疫学,自然史を明らかにするよう勧告した。Smallpoxの撲滅によって,この新たに発見されたウイルスが最も重要なOrthopox感染となったが,現在までに得られた情報は,これが公衆衛生上重要な問題とはならないことを示している。1984年3月28〜30日,Committee on Orthopoxvirus Infectionがジュネ−ブで開催され,過去5年間の継続サーベイランスを通して得られたヒトのサル痘の全体像についてまとめた。このレビューと勧告は第3回Orthopoxvirus Infection委員会報告(Document WHO/SE/84,162)に発表されたもので,要約は次の通りである。

 大部分のヒトのサル痘患者はザイールから報告されている(表)。ザイールでは1981年以降サーベイランスが強化されるにつれて発見数が増加した。1983年にはザイールの降雨林地域の住民約500万中54例がみつかった。この地域の住民の特に5〜14歳群はまだ種痘による免疫を保っているが,1983年以降未接種の子供が増加している。今のところ患者年齢に変化は認められないとはいえ,患者数の増加が動物間のウイルスの周期的変動を反映しているかなど,長期のサーベイランスが必要であろう。委員会は少なくとも1989年まで調査を継続することを勧告した。調査数が少ないデータだが家族内感染例でヒト−ヒト伝播は約15%にみられた。

 ザイール以外でも時々ヒトのサル痘発生があり,人痘が撲滅されていないという噂の源になっている。委員会はこれら地域の関係者に対しWHOへの報告と診断を確認するために検査材料を採取することを周知させるべきであると述べている。

 ウイルス保有動物は不明である。これに関する事実として,ザイールで子供がチンパンジーに誘拐されて12日後にサル痘を発症した。この動物は自然界で感染に感受性で全身的発疹を生ずることが知られている。また,1984年にピグミー族でみられた5例は,ほぼ同時に発症したもので何日か前にpock様病気だったサルとカモシカの肉を食べたといっている。

 委員会はザイールに実験室をもつ研究センタ−を設立することを勧告した。これはサーベイランス活動のレファレンスセンターとして,検査材料の収集と発送の基地として,また,来訪する研究者の便宜をはかり,さらに保有動物を同定することの助けになることが期待される。これはザイールのみならず,アフリカ全体のために役立つだろう。WHO,ザイールおよび日本政府が検討することが報告された。

 ヒト−ヒト伝播はまれで,疑われる13例中9例では2次感染で終止した。しかし,4例では第3,第4の伝播がおこったようだ。この成績は初発患者の発疹発症と2次感染の間隔を7〜23日と仮定しているので,感染動物からの同時初発例であった場合もありうる。ヒト−ヒト伝播を明確に確立することが重要である。

 最も早急に必要なのはサーベイランスおよび野外の研究をすすめるための感度高くかつ簡単なサル痘特異的抗体測定法の確立である。

(WHO,WER,59,24,1984)



Table 1. Number of Reported Monkeypox Cases by Country, West and Central Africa from 1970 to1 March 1984





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