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Vol.5 (1984/11[057])

<外国情報>
後天性免疫不全症候群(AIDS)が高率に発生した集団における,AIDSの病原として関連のあるレトロウイルスの抗体保有状況−米国とフランス


 レトロウイルスがAIDSの病原であることの証拠があがっている。2種類のウイルスが分離された。1つはAIDSに関連した症状である原因不明の全身性のリンパ腺症になった同性愛男性のリンパ節細胞から分離された(LAV)。もう1つは形態学的に同じT細胞性レトロウイルス(HTLV−V)が,AIDS患者72例中26例(36%)とAIDS様患者21例中18例(86%)のリンパ球から分離された。供血者と受血者の双方がAIDSになった例から抗原的にLAVと同一のレトロウイルスが分離された。このことがこのウイルスがAIDSの病原体であり,輸血によって伝染しうることのより強い証拠を与えている。直接比較した結果は公表されていないが,HTLV−VとLAVは同じウイルスのようである。なぜならば,電顕像が同じで,両方ともリンパ球向性で,OKT−4細胞に細胞変性を起こす。米国のAIDS患者からの分離株を比較すると,LAVと免疫学的に区別できず,AIDS患者または疑いのある患者からの多数の検体の血清学的検査は,どちらのウイルスを抗原として用いた場合も同様の結果を示し,また,それらのウイルスのコア蛋白の競合ラジオイムノアッセイに基づいた初歩的な結果は少なくとも高度に関連していることを示している。

 HTLV−V/LAVの抗体検出のために現在知られているのは3つの基本的な血清反応である。すなわち,破壊したウイルス全体を抗原とする酸素抗体反応(ELISA),LAVのp25と呼ばれるコアと仮定される大きな蛋白を抗原とする放射性免疫沈降反応(RIPA),ウエスタンブロット法による主要ウイルス抗原に対する抗体反応である。

 多くの協同研究者の協力のもとに,いくつかのハイリスク集団の血清がこれらの方法で米国立ガン研究所とパスツール研究所,CDCで調べられた。これらの調査の目的はHTLV−V/LAVへの暴露の頻度を決定することと,抗体陽性と現在の感染,臨床症状,予後との関係をみることである。

 初期のデータはAIDSが高率に発生した集団ではHTLV−V/LAVへの暴露が高率であることを血清学的に証拠づけられることを示している。すなわち,AIDSの症状のない米国の同性愛男性の17例中6例(35%)の血清中にELISAによりHTLV−Vの抗体が検出されたし,パリの性病クリニックに通っているリンパ腺症のない同性愛男性44例中8例(18%)の血清中にはELISAによりLAVの抗体があった。またサンフランシスコの性病クリニックに通っている同性愛男性の血清検体中のLAVに対する抗体保有率は,RIPA法で1978年は1%(1/100)だったのが,1980年は25%(12/48),1984年は65%(140/215)と上昇していた。1984年に検査された上記の男性中,AIDSの症状,徴候または関連ある症状のないものについては55%(69/126)の抗体保有率であった。ニューヨ−ク市は,静注薬剤常用者のAIDS患者が集中しているところであるが,AIDSでない最近の重症の静注薬剤常用者の87%(75/86)がELISA法でLAV抗体を持っており,RIPA法でも同じ集団の58%以上(50/86)がLAV抗体を持っていた。これに比べて,同じニューヨーク市でも鎮痛剤のメタドン常用患者で少なくとも3年間,静注薬剤常用を大きく減少する治療を受けていた35例はRIPA法でLAV抗体陽性率10%以下と低率であった。家庭で治療管理されている無症状の血友病Aの患者の72%(18/25)にウエスタンブロット法を用いてLAV抗体が証明された。これらの血友病患者はすべて1980年から1982年に第[因子の血液製剤を用いていた。

 MMWR編者註(抄):ここに挙げられた血清学的検査法は集団中の感染の頻度を推定するのには十分な感度と特異性があるが,個々の例について判断を下すにはまだ明瞭でない。供血者についてAIDS患者をスクリーニングするような場合に用いる方法はさらに確立されねばならない。そのような方法が確立されるまでは,AIDSのハイリスクグループの者は抗体陰性の者も含めてだれもが伝播を最小限に食い止めるため,AIDS予防のための勧告(1983年3月)に従わなければならない。

(CDC,MMWR,33,27,1984)






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