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Vol.5 (1984/12[058])

<特集>
ウイルスの呼吸器感染


 ウイルス感染の診断のためには鼻咽喉材料がウイルス分離用検体として最も多く利用される。この検体からウイルスが分離される場合の臨床症状は多彩である。表1に臨床症状別に鼻咽喉材料からのウイルス分離数を示した。1983年1月から1984年10月にこの材料から分離されたウイルスの総数は7091で,このうち,上気道炎,下気道炎および肺炎が報告された例は4386で約62%である。他の症状としては発熱,ヘルパンギーナ,手足口病,髄膜炎などが報告された。

 一方,呼吸器症状を伴う例には鼻咽喉以外の材料からのウイルス分離によって感染が確認される場合が含まれる。臨床症状として上気道炎・下気道炎・肺炎が報告された4977例のうち,鼻咽喉材料からウイルスが分離されたのは4386(88%)であるが,その他では特にエンテロウイルスでは便や髄液,またアデノウイルスでは眼ぬぐい液からの分離が報告される。ロタウイルスはすべて便材料による検出報告である(表2)。

 呼吸器症状が報告された例から分離されたウイルスの割合(図1)は,インフルエンザウイルスが最も多く,A(H1)型,A(H3)型およびB型の合計数が全体の47%を占めた。その他ではアデノウイルス(19%),エンテロウイルス(18%)が多く,ついでロタ,パラインフルエンザ,単純ヘルペス,マイコプラズマなどが分離されている。

上気道炎・下気道炎・肺炎の例について同時に報告された症状としては,発熱がほとんどにみられる以外に胃腸炎が多く,ロタを除く他のウイルスでも10〜20%に報告されている(表3)。

 これら呼吸器症状例からのウイルス検出について季節的変動を図2に示した。インフルエンザは冬季に限定して多数検出されるのに対し,エンテロウイルスは夏季を中心に幅広く分離される。アデノウイルスの多数の型の中でアデノ3型・4型による咽頭結膜熱は夏季に集中するが,他の型は年間を通じて呼吸器疾患から検出される。パラインフルエンザおよびマイコプラズマはインフルエンザとは時期的にずれて検出されている。

 上気道炎・下気道炎・肺炎を報告した例の年齢分布では,インフルエンザが広範に高年齢群からも分離されているのに対し,その他のウイルス感染は就学前の乳幼児が中心である(表4)。



表1.鼻咽喉材料よりウイルスが分離されたものの臨床症状(1983年1月〜1984年10月)
表2.上気道炎・下気道炎・肺炎患者より検出されたウイルスの検体の種類(1983年1月〜1984年10月)
図1.上気道炎・下気道炎・肺炎のあったものからのウイルス検出状況
表3.上気道炎・下気道炎・肺炎患者の臨床症状(1983年1月〜1984年10月)
表4.上気道炎・下気道炎・肺炎患者の年齢分布(1983年1月〜1984年10月)
図2.上気道炎・下気道炎・肺炎のあったものからの月別ウイルス検出状況





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