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Vol.6 (1985/2[060])

<国内情報>
日本における肺炎球菌血清型分布について


日本をはじめヨーロッパ,米国等先進国では肺炎球菌による感染は減少しているが,南アフリカ等では重要な疾患になっている。また,肺炎球菌の莢膜タイプは各国によって異なっていることが明らかとなっているが,これまでアジアにおける菌型分布はほとんど知られていなかった。

わが国における菌型分布については,昭和55年より福見秀雄を代表とする研究班によって調査されている。また,この研究班とは別に当所においても昭和55年からWHOの委託を受け調査を行っている。これらについては昭和55年から57年までの3ヵ月間の調査成績として感染症学雑誌1)に報告されているのでこの論文の概要を簡単に紹介することにする。

肺炎球菌感染の疑いのある患者から当菌が検出された数は590件であった。WHOから指示された検体は肺炎,脳脊髄膜炎,中耳炎,膿胸その他の患者の血液および体液であったが,その他に喀痰,咽頭スワブ等についても実施されている。患者の年齢は1歳以下が92例(15.6%),2〜14歳が129例(21.9%),15〜49歳が95例(16.1%),50歳以上は266例(45.1%),不明8例であり,性別は男性351例(59.5),女性238例(40.3%),不明1例であった。また,呼吸器疾患は高年齢層に多く,髄膜炎,中耳炎などは若年層に多くみられている。

分離された590株の菌型をみると全部で43菌型が発見されており,これを多い順にみると3型(12.7%),19F(9.3%),23F(6.8%),6B(5.9%),6A(5.9%),14(4.9%),11A(4.1%),19A(3.7%),9V(3.6%),22F(3.1%)およびその他であった。

わが国の統計によれば,昭和55年の肺炎球菌性肺炎の死者数は464名であり,そのうち50歳以上が418名(90.1%)を占めている2)。Austrianら3),は肺炎球菌菌血症を発症し,その初期に重い障害をうけた症例では,ペニシリン治療によって肺炎球菌を消失させても症状は改善されず重篤であるので,肺炎球菌ワクチンで菌血症の発生を防ぐことが極めて重要であると述べている。予防接種実施にあたっては,ワクチン自体の有効性と安全性の確認が必要なことはいうまでもないが,ワクチンに含まれる菌型が適切か否かが問題になる。現在肺炎球菌は83型に分類されているが,同一菌型によるArthus様反応による副反応を避けるため,Austrian4)らは世界中で同一ワクチンを使用すべきであるとし,また,各国の調査結果から高率に分離される菌型が明らかとなったので,1982年11月よりWHOの指導のもとに23菌型を決定している。しかし,わが国ならびにアジアについてはこれまで肺炎球菌菌型分布の調査研究がほとんど行われておらず,本ワクチンをわが国で用いるためには,まず,日本国内における菌型分布の検索が必要であり,本研究はこの意味で重要な情報を提供したといいうる。

今回発表された全分離株590株のうち430株(72.9%)がAustrianらが開発した23価ワクチンに含まれているが,160株(27.1%)はこのワクチンに含まれていないものである(表1)。従ってこの23価ワクチンの有効性はわが国の肺炎の73%をカバーしうるものといえよう。



文献

1)福見秀雄他,肺炎球菌ワクチンの臨床応用に関する研究−わが国における血清型分布−,感染症学雑誌,第58巻第1号,昭和59年

2)昭和55年人口動態統計下巻:死因第1表,死者数,性,年齢(5齢階級),死因(基本分類)別,厚生省統計協会,東京,P136,1982

3)Austrian, R.& Gold G.:Pneumococcal Bacteremia with Especial Reference to Bacteremic P. neumococcal Pneumonia, Annals of Internal. Medicine, 60:759-776,1964

4)Austrian, R., Gotshilich, E., Henrichsen, J., Robbins, J.B., Schiffman, G.& Tiesjema, R.H.:Need for agreement on a single Pneumococcal vaccine formulation, Lancet, i:1354,1980



京都府衛生公害研究所 藤原元典


表1.肺炎球菌血清型分布





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