HOME 目次 記事一覧 索引 操作方法 上へ 前へ 次へ

Vol.6 (1985/2[060])

<外国情報>
食品性溶連菌感染症の集団発生−プエルトリコ,米国ミズーリ州


1984年にプエルトリコとミズーリにおける2つの食品性A群溶連菌咽頭炎の大発生がCDCに報告された。

プエルトリコ:1984年8月3日,プエルトリコ,サンホアンの私宅でパーティー参加者多数が咽頭痛,筋肉痛,頚部リンパ節炎,発熱をともなって発症した。多数が医師の診断をうけ滲出性咽頭炎と診断され,1人が入院した。

プエルトリコ衛生部は8月8日に集団発生の届けを受けた。罹患率が高く症例が集積しているので,発生は食品性と推定された。パーティー参加者47人中45人(96%)から自己記載アンケートがあつまり,その家族接触者から25あつまった。44人(94%)から咽頭培養が得られた。

パーティー以前から咽頭炎を発症していた3人とアンケートが不備な1人,計4人が分析から除外された。残り41人中23人(56%)が症例の定義をみたす病状であった。カルチョ(巻貝のサラダ)を食べた人の罹患率は食べなかった人の29%に比較して70%であった(p=0.013)。他の食品は罹患率に有意差を示さなかった。カルチョを食べた人では量と発病の関係が証明されなかった。また,夕方早目に食べた人と遅くなってから食べた人の間にも罹患率に差がなかった。

パーティーに出席せず土産として持ち帰ったカルチョを家で食べた4人中2人が咽頭炎にかかったこともカルチョが伝播物であることをさらに支持した。カルチョを食べなかった家族接触者の二次感染率は4%であった。潜伏期は12〜60時間(平均24時間)であった。

パーティー出席者11人の咽頭培養と,パーティーに残されたカルチョの小試料からA群溶連菌が発育した。全株とも同一血清型(M型別不明,112 ,SOR+)であった。

カルチョはサンホアン外部の小さな海浜レストランで作られ,カルチョをつくるための巻き貝は破れた無標識のプラスチック袋に入ってサントドミンゴから輸入されたということであった。試験用に残された未調理の貝はなかったが,貝は2時間半煮たといわれ,どんな溶連菌も殺すに適したサラダの作り方だったと主張された。パーティーのあった午後70ポンドのカルチョが作られた。パーティーの主催者が25ポンドを買いパーティーに届けるまで3時間自動車内温度におかれた。

その週末にそのレストランで食事した約2000人が残りのカルチョ45ポンドに暴露された可能性があった。その週末そこで食事したかもしれない個人を特定する方法がないので,サンホアン地域を担当する4臨床微生物検査室が8月中の咽頭菌培養陽性数が昨年の同時期の数より高かったか調査したが,増加はみられなかった。

レストランの食品取り扱い者全員に会って皮膚の病変,咽頭,鼻腔,手の菌培養を調べた。最近咽頭炎や皮膚病変にかかったという話も,陽性の菌培養もなかった。そのパーティー後の1週間そのレストランで作られたカルチョを含む食品を培養したが,A群溶連菌はすべて陰性であった。

パーティー出席者が溶連菌に暴露されたかもしれないので,プエルトリコ衛生部は咽頭炎症状を呈した全出席者に,培養結果のいかんを問わずA群溶連菌に有効な抗生物質治療を受けるよう勧告した。

ミズーリ:1984年5月31日から6月1日にかけてミズーリ州カンザス市のホテルでおこなわれた会議で7州からの出席者の間でもう1つの集団発生がおこった。6月6日にカンザス市衛生部は会議に出席した血液銀行の3人の技術員にA群溶連菌性咽頭炎3例の届出を受けた。この会議の出席者間から他の症例が報告された。症例が集積し罹患率が高いので食品性のものと思われた。

電話や郵便でアンケートが行われ,139人中136人(96%)が会議に出席したことがわかった。症例は咽頭炎のある家族と前に接したことがないのに5月31日から6月5日までに急に咽頭痛がはじまった人であると定義された。重症度は軽い不快感から数日職場を休む者まであった。咽頭菌培養が得られた14人中13人(93%)がA群溶連菌陽性と報告された。しかし,検索時に培養は入手できなかった。5月31日に行われた昼食会について検索された。昼食会に出席しなかった30人の会議出席者には症例がなかったのに比して,出席者106人中には60人(57%)が症例と同定された(p<0.0001).罹患率を各食品についてみるとマカロニサラダかデザート菓子のムースが伝播物かもしれなかった。マカロニサラダを食べた人の罹患率は食べなかった人の47%に比して88%であった(p<0.0001)。しかし,罹患した人の3分の1だけがマカロニサラダを食べたと話した。ムースを食べた人の罹患率は食べなかった人の39%に比して63%であった(p=0.53)。そして罹患した人の82%がムースを食べたというので,伝播物は1つだけらしいと考えられた。疾患の潜伏期は24〜36時間(平均36時間)であった。

昼食用の食物はすべてホテル従業員5人によって作られた。食品取り扱い者に会見し,検査して培養を採取した。全員A群溶連菌陰性でどの従業員にも皮膚病変がみられなかった。1従業員が昼食会の日に咽頭痛があったが,医師に言わなかったと主張した。

その昼食会の朝,菓子料理長は2つの型のムースを作った。その調理の過程で30分間冷蔵するが,できあがった菓子は昼食会前1ないし2時間室温におかれた。

(CDC,MMWR,33,No.47,1984)






前へ 次へ
copyright
IASR