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世界の状況:1985年5月10日までにWHOに報告された1984年中のコレラ発生数は28,893である。1983年は64,061であった。報告国数は前年の33から35に増加したが,1961年以来の第7次パンデミーの非感染地域へは流行は拡大していない。発生数が減少したとはいえ,報告が不十分な国がありまた,他の情報源がコレラ発生を示しているのに報告のない国がある。
アフリカでは前年の36,722から17,060に減少した。1983年に流行した国では減少したが,一方,1983年に発生のなかった西アフリカの19国では流行がみられた。
アジアでも,1983年の27,005から84年は11,801に減少した。主な減少はインド,マレーシア,インドネシアである。発生報告数は減少したが,これ以外の国でendemicでありつづけている証拠がある。
ヨーロッパの2つの国で合計5例の国内発生,他の2国では輸入例のみが報告された。
オセアニアのPacific IslandのTrust地域の流行は11月に終息した。
アフリカの状況:1985年3月6〜21日ケニアで開催された技術協力に関する発展途上国会議で対策が討議された。アフリカの多くの国でコレラはいまだendemicでありつづけ,周期的に流行がおこっている。1984年の西アフリカの流行では致死率が特に高く,8.0から22.6%に及び,伝播は非常に早かった。原因として,衛生関係機関から遠隔地であること,遊牧民の生活様式,かんばつによる水および食料の欠乏,栄養失調,さらに,死者のまわりに集まり,体を洗い,葬式の間もてなしをする習慣などが,発見と治療を困難にし,拡散を助長していると報告された。
コレラ流行のコントロール:コレラ菌は糞口感染で,最も多いのが水系感染だが,汚染された魚介類などの食物も感染源となる。ヒト−ヒトの直接感染は一般的ではない。エルトール型菌は海中や魚介類中で生存しうる。初発患者と感染源および流行終息の確認のためには実験室検査が必須である。あとは臨床診断でよい。早期発見が重要でこれには情報交換が役立つ。
最近の治療で致死率は1%以下に低下できる。大部分は現地での経口水分補給で治療しうる。もちろん,重症例には輸液を要する。抗菌剤だけでは致死を防げない。ワクチンはキャリアを防げず,したがって菌の拡散を防げないのでWHOは推奨していない。ある種の抗菌剤の副作用,とくに,耐性株の出現とアレルギー反応に留意すべきである。
下痢症コントロール計画:コレラ対策は国の下痢症対策の一環として実施されることによって最も効果的となる。この対策としては,すべての下痢症患者の適切な治療,母乳と適切な離乳の奨励,安全な水とディスポーザブル器材の使用,さらに手洗いの励行というような実際的な個人衛生教育である。この計画によりすべての衛生担当者に急性下痢症に対する水分供給治療を徹底させる。同時に,発生報告およびサーベイランスシステムを確立し,異常な疾病パターンや前ぶれ流行を認知し,すみやかに対処する。こうしてコレラ流行に直面した時の国の能力と準備を強化し,すべての下痢症の被害を低下させうる。
上記活動を実施するにあたって,各国はWHO,ユニセフ,さらに国立,国際的,民間の種々の機関を通じ協力しあえるだろう。
(WHO,WER,60,No.20,1985)
Cases of cholera notified to WHO,1984
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