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Vol.6 (1985/10[068])

<国内情報>
カンピロバクター腸炎の現況−都市立伝染病院の資料より−


今日,各種感染性腸炎の起因菌の分布は著しく変貌した。すでに細菌性赤痢患者の国内発生は稀となり,最近ではコレラとともにむしろ輸入伝染病といえるようにさえなっている。赤痢の激減以降,細菌性下痢症の起因菌といえば,小児ではサルモネラ,成人では腸炎ビブリオが長い間,それぞれ代表菌種とされてきたが,近年,臨床細菌学の進歩と,それに伴なう培養技術の向上によって,下痢症の分野に新しい起因菌が続々と登場した。わけても,これらの新しい菌種のうち,Campylobacter jejuni/coliは,1977年にSkirrowによって優れた選択培地が開発されて以来,世界中から報告が相次ぎ,10年足らずの間に,わが国の腸炎起因菌のうちで最も重要なものの1つとなるに至った。当初,本菌の感染は小児に多いと考えられていたが,近頃では成人の感染も決して少ないものではなく,事実,最近の都立豊島病院の外来下痢患者でみる限り,小児,成人を問わず,本菌の分離頻度はサルモネラや腸炎ビブリオを抑えて,常に第1位を占めている。

感染性腸炎研究会では,本研究会に参加する都市立14伝染病院に感染性腸炎と考えられて収容された患者・保菌者について,各種病原菌の検出頻度を逐年報告している(表1)が,この集計に初めて現われた1980年にわずかに16例に過ぎなかったCampylobacter分離例が,翌1980年には早くも170例(12.7%)と大幅に増加し,赤痢菌,サルモネラについで第3位に躍り出た。その後も引き続いて毎年約10%台の検出率を維持している。

カンピロバクター腸炎患者の年齢分布には1〜4歳と20〜29歳の2つのピークがみられ,小児と成人は相半ばする(特集表1参照)

本腸炎の発生は5〜8月に多少増加の傾向はあるものの,季節的変動はあまり著明ではない(表2)。また,本菌は国内の下痢患者ばかりでなく,輸入例から分離されることも多く,1981〜84年の5年間に本菌が分離された計642例のうち,輸入例が90例(14.1%)を占めた。

これらの輸入例のうち,C.jejuni/coliが単独に分離された症例は少なく,たとえば1984年についていえば,25例のうち17例(68%)は赤痢菌,その他の病原菌との重複感染例であり,かつ,それらの患者の推定感染国はインド・ネパール・パキスタンに集中していた。

以上,主として都市立伝染病院収容例について,カンピロバクター腸炎に関する疫学的情報を解説したが,しばしば血便を呈し,臨床症状の面からも,発生頻度の面からも往年の赤痢に比肩する本腸炎は,散発下痢症として重要であるばかりでなく,近年本邦各地において本菌による大量の集団発生例も頻繁に報告されている。すでに1982年に厚生省環境衛生局通達で,本菌をはじめとする8つの菌種について,必要に応じて食中毒原因菌としての取扱いを受けることとなったが,ますます増加の傾向にある本症について一層の関心をもって対処することが望まれている。



感染性腸炎研究会 都立豊島病院 松原義雄


表1.感染性腸炎入院患者(含保菌者)数と病原菌検出頻度(1981〜1984年)
表2.C.jejuni/coli月別分離症例数(1981〜1984年)





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