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Vol.6 (1985/10[068])

<国内情報>
SDS−PAGEによる非定型ロタウイルスの検出


ロタウイルスは,車軸上の形態を呈する内外二層のカプシドを持ち,内層カプソメアの亜群特異的抗原性からT群・U群に,また,外層の中和反応による血清学的特異性から,4型の血清型に分類されている。さらに,ウイルスのコア内に,SDS−PAGEにより多彩な泳動パターンを示す11分節の二重鎖RNAを有しており,特に第10・第11分節の移動度により大きくS型とL型に分類されている。

今野の総説1)によると,最近世界各地でヒトおよび各種の動物から,従来の定型的ロタウイルスとの共通抗原性を欠く非定型のロタウイルスが数種検出され,それらのRNA泳動型は従来のものと著しく異なることが報告されている。そのため,Flewettにより定型的なウイルスをA群とし,他の非定型的なものをB・C・D・E群と分類するよう提唱されているという。ヒトでは非定型ロタウイルスとしてC群とE群に属すると考えられているものの検出例が報告されている。特にE群ウイルスは1982年から83年にかけて,中国で成人を中心とした大規模な下痢症の流行をひき起こしており,これら非定型ロタウイルスの動向が注目されている。

今回,我々は従来から行ってきた電顕法による下痢症の病原検索にSDS−PAGE法を併用し,定型的ロタウイルスのRNA泳動像とは著しく異なるパターンを示すロタウイルスを検出したので報告する。

表には1984年11月から85年5月までの,松山市の1小児科外来の急性胃腸炎患者からのロタウイルス検出状況を示した。今冬はロタウイルスの流行開始時期が例年と比べ約1月遅れていた。電顕法でロタウイルス陽性例のうち一部についてLaemmliの方法によるSDS−PAGEで泳動後,臭化エチジウム染色および銀染色をし,RNA型の解析を行った。現在までに44例の解析結果が得られているが,L型が31例(70.5%),S型が7例(15.9%)で,L型とS型の混合感染例と考えられるものが1例みられ,非定型的な泳動パターンを示すものが5例(11.4%)あった。この5例の泳動像の特徴は,第7分節が第6分節に接近して位置し,第10・第11分節がA群のL型のそれらよりさらに大きく移動している点で,Nicolasら2),Dimitrovら3)により報告されている非定型ロタウイルスの泳動像と同様であった。また,これら5株は電顕的観察では,他の定型ロタウイルスと全く区別できなかった。

この5例の非定型ロタウイルスの糞便材料は,電顕法ではすべて400メッシュの1スクエアー内に数十から数百の粒子が観察されたにもかかわらず,R−PHA法(ロタセル・目黒研究所)では全例陰性であった。このことは今回の非定型ロタウイルスが,A群ウイルスとの共通抗原性を欠いている可能性を示唆している。

5例の患者の性別・年齢はそれぞれ女・33歳,女・12歳,男・7歳,男・6歳,男・6歳であり,高年齢の者のみであった。症状は従来のロタウイルスによるものと何ら異なるところはみられなかった。また,患者は松山市とその周辺部に広く散在していた。

前述のNicolasらやDimitrovらのウイルスはC群に属すと考えられているところから,我々の検出した非定型ロタウイルスがC群に属すものと考えている。このウイルスは現在国内で用いられているELISAやR−PHAをはじめとする血清学的検査法では全く検出されないこと,また,今回の検出率が11.4%と比較的高いことなどから,今後このウイルスは疫学および臨床診断上重要な問題になることが予想される。

文献

1)今野多助:医学のあゆみ,131:862(1984)

2)Nicolas J. C.:Virology 124:181(1983)

3)Dimitrov D. H.:Infect. Immun. 41:523(1983)



愛媛県衛生研究所 大瀬戸光明 山下育孝


表.ロタウイルス検出状況





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