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Vol.6 (1985/11[069])

<国内情報>
徳島県におけるエンテロウイルスの最近の動向


腸内ウイルスによる疾患の中には発疹を伴うものが多く,原因となりうるウイルスも多く報告されている。1985年5月〜7月にかけて,徳島市においてエコー16型(E−16)によると思われるウイルス性発疹症が多発した。検査依頼された検体は,ウイルス性発疹症,夏風邪発疹症,風疹様症候群といった疾患名であったが,疾病名にかかわらずE−16型が数多く分離された。検体は大部分が咽頭ぬぐい液で,使用した細胞はLLC−MK2,HEp2,HELの各細胞である。E−16はHEL細胞でのみ分離され,Schmidt pool血清および単味血清で容易に同定された。今回の発疹症の多発では,検査依頼された患者の年齢分布より推測し,好発年齢は3歳以下と思われた。E−16が分離された患者の一般的臨床症状は発熱(38℃〜39℃),発疹であり,上気道炎,リンパ節腫脹はあまり目立たなかった。発疹は3mm前後の紅斑で,発熱と同時か,発熱後一日程度遅く現れ,顔,身体部より四肢に広がった。時々,発疹が融合し6mm〜7mm程度まで大きくなったケースもあった。発疹は第4病日程度より枯れはじめた。今回の多発の特徴は次の2点である。

@小児の発病後,大人(特に母親)に感染し,発熱または発疹を引き起こした。

Aリンパ節腫脹はあまり目立たない。しかし,リンパ節腫脹がみられたケースでは風疹の臨床症状とよく似ていた。

今回の発疹症の多発に際しては,ウイルスを分離しただけで,血清学的に確認していないが,約4割の検査材料よりE−16が分離されたことおよび兄妹が相次いで罹患し,両者よりE−16が分離されたケースがあることより考え,E−16によるウイルス性発疹症の多発である可能性が強く示唆された。

一方,初夏よりE−16が数多く分離されたことより,E−16による無菌性髄膜炎(AM)を警戒したが,E−16によるAMは7月に1例発生しただけであった。このE−16によるAMでは,発疹はみられなかった。例年6月〜8月にAMの多発がみられ,昨年はコクサッキーB5型(CB5)が流行の主流であったが,本年はE−6が主に分離された。E−6は主にHEp2,HEL細胞より分離された。6月〜8月のAMの検体数は50件で,そのうち12検体よりウイルスが分離され,E−6(10),E−16(1),ムンプス(1)であった。本県では,AMの検査材料は全て髄液であり,夏期のAMの場合は,例年検査数の約半数からウイルスが分離されるが,本年は例年に比べ分離率が低かった。

この他のエンテロウイルスの動向としては,手足口病患者18名中,15名よりコクサッキーA16型が分離された。

以上,1985年春〜夏にかけて,徳島市周辺におけるエンテロウイルスの動向を述べた。



徳島県保健環境センター 山本保男 岩佐成明


表.ウイルス性発疹症より検出されたウイルス(1985年)





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