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Vol.6 (1985/12[070])

<国内情報>
山形県住民のインフルエンザウイルスに対する抗体保有状況(1985年7〜8月)


私達は,毎年流行前における県内住民のインフルエンザウイルスに対する抗体保有状況を調べ,山形県におけるインフルエンザの流行を予測する資料を提供している。本報では,本年度の調査成績について報告する。

材料と方法

被検血清:1985年7〜8月に,無作為に採取した山形県住民355名(1〜82歳)の血清を,それぞれRDE(デンカ生研KK)でインヒビターを除去し,その後ニワトリ血球で非特異凝集を吸収し,被検試料とした。

ウイルス:1985年度のワクチン株であるA/Bangkok/10/83(AH型),A/Philippines/2/82(AH型)およびB/USSR/100/83(B型)の市販抗原(デンカ生研)と,本年5月に山形県の県南部(山間地)の某高校に集団発生1)したかぜ様疾患からの分離株A/山形/91/85(AH型)を発育鶏卵(10日卵)の奨尿膜腔内に接種し,培養後に得られた奨尿液を赤血球凝集(HA)抗原とした。

抗体価:各HA抗原に対するHA抑制(HI)抗体価は,マイクロタイター法で測定した。

結果と考察

A(H)型インフルエンザウイルスに対する抗体保有状況(図1a):A(H)型インフルエンザウイルスに対する抗体保有状況は,全年齢層においてその保有率が高く(約90%),また高い抗体価を示すものが多くみられた。これは1978年以降これまで数回にわたる流行によって感受性者が感染し,県内住民のほとんどの者は,A(H)型インフルエンザウイルスに対して非感染者になっていることを示している。また,今年に入ってからの国内外におけるA(H)型インフルエンザウイルスの分離報告は極めて少なく,いずれも散発例である。これらのことから,A(H)型インフルエンザは流行しないと考えられる。

A(H)型インフルエンザウイルスに対する抗体保有状況(図1b,c):ワクチン株:A/Philippines/2/82および本年5月,山形県山間部に発生した局地流行からの分離株:A/山形/91/85に対する抗体保有状況を比較した。前者に対する抗体保有率(65%)に対して後者に対するそれ(51%)は若干低く,かつ抗体価も後者の方に低い価を示す者が多いが,両者に大きな差異は認められない。

なお,成績は示さないが,A/Philippines/2/82およびA/山形/91/85のニワトリ抗血清による抗原分析においても,両株の間に抗原性の大きな隔たりはみられなかった。

次に,本年(1985年)3〜8月の国内外におけるウイルス分離の状況2)(米国防疫センター:CDC情報)をみると,A(H3N2)型ウイルス分離の報告が最も多い。

一方,国内における昨年暮れからのA(H)型インフルエンザウイルスの分離状況3)をみると,奈良県(1984年12月),福島県(1985年2月),三重県(2月),神奈川県(2〜3月),新潟県(3月),岡山県(4月),山形県(5月)および東京都(7,10月)の計8都県で本ウイルスが分離された。

これらのことは,A(H)型インフルエンザウイルスが国内を問わず,かなり広い地域に散布されたことを示しており,このウイルスが次期流行につながる可能性は大きい。しかし,これまで国内外において分離されたウイルスは,抗原性において,ワクチン株から大きく隔たりがないことおよび本県住民の抗体保有の状況が,ワクチン株と分離株の間で大きな差が認められず,半数以上のものが抗体保有者であることから,その流行は比較的小さい規模と推測された。

B型インフルエンザウイルスに対する抗体保有状況(図1d):今冬季(1985年1月〜2月)の流行株であったB型インフルエンザウイルスに対する住民の抗体保有状況は,流行後にもかかわらず,全体ではやや低い抗体保有率(48%)を示した。しかし,患者が多くみられた5〜20歳の年齢層においては,ほとんどの者が抗体保有者であり,その抗体価も比較的高い値を示した。

CDC情報2)によれば,1985年3月以降8月までの間にB型インフルエンザウイルスが,中国(3月),インドネシア(3〜5月),台湾(3〜6月),シンガポール(3〜6月),オーストラリア(5〜7月)および南アフリカ(7月)で分離されているにすぎない。また,国内におけるB型インフルエンザウイルス分離状況をみると,本年の流行が終息した4月以降少数しか報告されていない。これらのことから,B型インフルエンザが流行する可能性は少ないと予測される。

以上,最近の国内外のインフルエンザウイルスの分離状況および本県における住民のHI抗体保有状況から,次期のインフルエンザの流行はA(H)型によると予測される。

本調査に協力された山形県環境保健部保健予防課,村山保健所,山形大学医学部附属病院中央検査部,山形市立病院済生館検査科および日本赤十字山形県支部血液センターの関係各位に深謝する。

(東北6件防疫月報に掲載)

文献

1)大山 忍他,東北6県防疫月報No.99,16−17,1985

2)CDC,MMWR,34,No.34,1985

3)武内安恵(国立予研):私信



山形県衛生研究所 大山 忍 大泉昭子


山形県住民のインフルエンザウイルスに対する抗体保有状況(1985年7月〜8月)





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