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1984年6月,岐阜県東濃地区のK町の一医師より県衛生環境部,保健予防課へ伝染性紅斑の集団発生の原因調査依頼があった。その直後,その発疹症は,伝染性紅斑と2,3の点で異なっていることが明らかとなった。その相違点は,発熱患者が多いこと,潜伏期が3日位と短いこと,発疹が紅斑ではなく小丘疹であること,季節的にやや異なっているなどであった。調査は不明の発疹症として開始した。ちょうどその頃,東濃地区のT市において著者等は無菌性髄膜炎(AM)患者から検体を採取していた。両疾患の患者検体についてウイルス分離を実施した結果,岐阜県で今まで分離されたことのないエコーウイルス16型(E−16)が分離されてきた。
検査患者の年齢は0歳から32歳に分布していたが,9歳以下が44名(91.7%)であった。
E−16の分離は,HeLa細胞,CMK1−S1細胞,RD細胞(人胎児横紋筋腫細胞)を用い分離を試みた結果,RD細胞でよく分離された。HeLa細胞での分離率はRDに劣っていた。CMK1−S1細胞,乳のみマウス等では分離されなかった。
AM患者ペア血清47,発疹症患者ペア血清9の合計56ペア血清について,E−16の分離代表株を用いて中和抗体価を測定した。有意抗体上昇を示した血清は56件中23件(41.1%)であった。ウイルス分離者では16名中14名(87.5%)が有意抗体上昇を示した。
ウイルス分離と血清学的診断によりE−16の感染が確認された患者は表2のように,41名であった。K町のF医師によれば,103名の発疹症患者が確認されており(日本感染症学会中日本地方総会にて発表),かなり東濃地区での流行があったと推察された。
E−16は,米国では1951年から1954年にかけて流行し,Boston exanthemの名で報告されているが,日本では昭和40年から58年までの19年間に24例の分離報告があるのみで,しかも,いずれも散発例である。1984年になり,北海道を除く日本各地より分離報告があり,病原微生物検出情報によれば,64例の発生が報告され,1985年も徳島県でE−16による発疹症の流行が報告されている。このウイルスの動向については非常に関心をもって観察しているが,岐阜県では1984年1年のみで,1985年はいまだE−16は分離されていない。
岐阜県衛生研究所 三輪智恵子 渡辺 豊
表1.エコーウイルス16型分離成績
表2.エコーウイルス16型感染確認患者
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